■Jealous -03-■



 高層ビルが立ち並ぶ街の中。
 ビルの屋上で夜の街を見下ろし、強い風に髪をなびかせていたナイトウィングは。背後から近づいてくる気配に気づき・・・

 殺気はナシ・・・けど、バットマンでもロビンでもないな・・・と、いうことは・・・

 相手に悟られないようにいつでも攻撃できる体勢をとり、こちらの攻撃範囲内に入ってくるのを待つ。
 何もしてこないのならこちらも攻撃する必要はないのだが、相手が相手だけに嫌な予感も拭えない。

 さて、どう出る?

 向こうもこちらも、腕を伸ばせば手が届く。と言う距離に近づいたとき、不意に、相手の気配が・・・殺気とはまた違う・・・嫌なものへと変わった。
「っ!!」
 ナイトウィングはその気配を察知するや、振り向きざまに相手の頭の位置に回し蹴りを入れる。
 だが、相手もそれを予測していたのか、すぐさましゃがんでその足を避けた。ナイトウィングは避けられた事に心の中で舌打ちをして、足を振り切る前に止め、相手の頭上へ今度は踵落としを入れようとするが。
 相手はしゃがんだ体勢からナイトウィングの腹にめがけて体当たりをし、彼を押し倒した。
「っ〜〜〜レッドフード!!!」
 仰向けに倒れる事はなかったが、強かに尻を打ちつけたナイトウィングは涙目になりながら、相手を悲観するようにその名を叫んだ。
「あ〜・・・」
 だが、レッドフードはそんなことはお構い無しに、ナイトウィングの腰にしっかりと腕を回し抱きついたまま、腹の辺りにすりすりと顔をこすり付ける。
「ちょ!おまっ!!やめっ!!」
 腹の辺りを何度も擦られる感覚に、ナイトウィングは総毛立ち暴れ、その束縛から逃れようとする。
「え〜?抱きつくぐらいいいじゃん別に」
 流石に力ずくで引き剥がされそうになると、レッドフードは頬ずりをやめてナイトウィングを見上げて拗ねる様に唇を尖らせた。
「そんなとこに頬ずりされると気持ち悪いんだよ!!見ろこの鳥肌!!」
 とにかく行為を止めさせたいナイトウィングは、自分の状況を教えるべく。コスチュームの襟首をぐいっと伸ばし、と総毛立っている肌を見せると。
「お〜・・・ほんとだ、スゲーことになってる」
 レッドフードは言われたとおりその部分に顔を近づけじっくりと見てから。

 かぷり

「っ!!」
「ぎゃ!」
 露にされた首筋に軽く噛み付き、レッドフードはナイトウィングに拳で殴られた。 
「いって・・・ひでぇなぁ」
「お前が変な事するからだろ?いいからどけよ」
 殴られた場所を手でさすりながらも、レッドフードはナイトウィングの上からどこうとしない。それどころか・・・
 足を抱えあげられ、まるで"最中"のような体勢をとられそうになり。ナイトウィングは足をばたつかせて暴れ、何とかレッドフードの腕の中から逃れ距離をとった。
「何考えてるんだお前!!」
「え?"ナニ"」
「・・・お前最低だな」
 威嚇するように睨み付けならが叫ぶと、飄々と返ってきた言葉にナイトウィングはげんなりとする。
「だってディッキーの中すんげー気持ちよかったんだもん。なぁ、俺、またアンタとヤりたい」
 無邪気な子供のような笑みを浮かべているのに、言っている言葉はとてもストレートなお誘いの言葉。
「なっ!ばっ!!・・・お、お前とはもうしない!!」
 ナイトウィングは顔を真っ赤にして叫び、そっぽを向いた。その隙に、レッドフードはナイトウィングのすぐ傍に歩み寄り、その両手を掴んで。
「なんで?アンタだって気持ちよかったんだろ?」
「っ!?そっ・・・そんな事・・・っ!!」
「良くないわけないよなぁ?アンタ、俺に突っ込まれてあんだけアンアン喘いでたんだし」
「〜〜〜〜!!!??」
 鼻先が触れ合いそうなほど近くでニヤリと笑い言われた言葉に、恥ずかしさのあまり声を出せずに口をパクパクとさせていると。
「な、ディッキー。いいだろ・・・?」
 急にまじめな顔になったレッドフードがゆっくりと唇を近づけ・・・

 ゴッ!!

 なにやら鈍い音がしたと思ったら、急にレッドフードは掴んでいたナイトウィングの腕を離し、己の頭を押さえ俯き。ナイトウィングの胸に顔を埋めてプルプルと震えていた。
「じぇ・・・ジェイソン・・・?」
 いきなりの事にナイトウィングは驚いて、レッドフードの肩に手を置き、背中を撫でてやる。何事かと辺りを見回すと・・・足元に分厚いバッタラン(殴る事を目的に作られたもの)が落ちていた。おそらくどこからかこれが投げつけられ、レッドフードの頭に直撃したのだろう。
 先ほど聞こえた鈍い音からも、相当な衝撃だっただろう事は容易に想像できる。
「・・・ドレイク!!またてめぇか!!」
 すこし痛みが治まってきたのか、レッドフードが涙目になりつつ振り返り叫ぶと。
 ナイトウィング達がいる場所とは反対側のビルの端に、バットマンとロビンが降り立ち。
「トッド。お前も懲りない奴だね・・・」
 と、ロビンがレッドフードを睨みつけながら言った。
「・・・また・・・?」
 レッドフードとロビンが睨み合い、今にも殴り合いを始めそうな雰囲気だ。そんな中、ナイトウィングはレッドフードの言葉に首をかしげた。二人の言葉から、何か以前にあったのだろうとは想像できるが・・・



 実は本当に偶然ではあるが、ロビンがゴッサムをパトロールしている最中に二人は顔を合わせていた。
 スラム街の裏路地で見知らぬ女性と熱い口付けを交わしているジェイソンを見つけてしまったのだ。
 初めは無視するつもりだったのだが・・・
 この男が、自分が敬愛するナイトウィングを"陵辱"したのだと思うと、なんともいえないどす黒い感情が腹の底から湧き上がり我慢が出来なくなった。
 いくらジェイソンと関係があるとはいえ(おそらく)一般人であろう女性を巻き込む事はできない。だが、あの気の短いジェイソン・トッドなら・・・
 ロビンはジェイソン達の方からもよく見える建物の屋上へ屋根伝いに移動し、そこから彼に目掛けバッタランを投げた。もちろん、殺気をこめた視線で睨みつけながら。
 ジェイソンはすぐさまその殺気に気づき女性から離れると、飛んできたバッタランを銃で撃ち落す。
 バッタランが飛んできた方向を目で追うと、夜の闇の中で活動するには少々目立つ黄色い裏地のマントがひらりとはためいたのが見えた。
 わざとジェイソンに自分のマントを見せたロビンの思惑通り、彼はロビンを追う。

 ジェイソンは一度ロビンに力で勝っている。だが、今回ロビンは自分が持つ全ての道具を駆使して逆にジェイソンを追い詰めた。
 ボロボロになり、悔しそうに地面を殴るジェイソンに向かって。ロビンは最後に言い放つ。
『二度とナイトウィングに近づくな!!』



 そんな事があったとは露知らないナイトウィングは、二人の仲がさらに険悪になっている原因が自分のせい(ある意味間違ってはいないが)だと思い二人を止めようとする。
「二人とも、止め・・・」
 だが、二人の間に割って入ろうと動かした足は数歩で止まってしまった。逞しい腕がナイトウィングの腰にまわり、彼の動きを止めたのだ。
「バットマン?」
 ナイトウィングがその腕の主を見上げると、バットマンは無駄だ。と言うかのように静かに首を横に振る。
「でも・・・」
 幸いにも、二人はまだ罵り合うだけで直接手を出してはいないのだが。
「・・・やっぱり止めないと。バットマン離して」
 無駄だとはわかっているのだが、このまま黙って見ている事も出来ないナイトウィングは、再びバットマンを見上げる。
「あー!!」
 すると、今まで目の前の相手をどう言い負かすかしか考えていなかったレッドフードが二人の様子に気づき声を上げる。
「何いちゃついてるんだよ!!」
「っ!?別にいちゃついてなんか!!」
 指をさされ言われた言葉に、ナイトウィングは顔を真っ赤にして反論する。
「あ〜あ〜もう、なんだよ〜。やっぱりそこに納まるのな」
 拗ねた子供のように唇を尖らせて言うレッドフードを、ロビンが隙あり!と殴ろうとするが、それはひらりとかわされる。
「ちぇっ、今日は邪魔ばっかりだから帰るわ。またな、ディッキー」
 レッドフードはロビンの拳を避けた後、すぐさま隣のビルに飛び移り。
「あ、そうだ。ブルース!俺の、アンタのよりデカイらしいぜ〜」
 そして最後の最後にそんな事を言い残し、夜の街へと消えていった。
「・・・・・・」
 残された三人は三様な表情を浮かべていたが・・・
「・・・ディック、後で詳しく教えてもらおうか」
 レッドフードの言葉の意味を理解したバットマンが静かに言い。ナイトウィングはその後自分の身に起こるであろう事を危惧し、胸の前で両手を組んで天を仰いだ。



END

                                 2008/11/10




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