■Wanted Feelings -02-■
夜。昼間の雨が嘘のように空は晴れ渡り、大きな月が顔を出していた。
そんな月明かりが照らす屋敷の長い廊下を、一人の青年、ディックが明かりも付けずに歩いている。
ディックは黒く長い髪を後ろで一つにまとめているが、前髪はおろしたままだ。
服装も普段のラフなジーンズスタイルや、ナイトウィングのコスチュームではなく。ガウンをまとい、ズボンもパジャマズボンという完全にくつろいだ格好をしていた。
長い長い廊下を一人で歩いていたディックは、とある部屋の前まで来ると・・・一瞬ためらう素振りを見せたが・・・ドアノブに手をかけ、辺りを見回し誰もいないことを確認した上で、部屋の中へ入っていった。
部屋の中は廊下同様暗かったが、月明かりでかろうじて家具の場所がわかる状態だ。
ほとんど寝るときぐらいにしか使われていないこの部屋の主は今は大事な商談中で、おそらく帰ってくるのは夜遅くか、明日の朝になってからだろう。
ずいぶんと昔に、部屋の主、ブルースが幼い自分にまで今回の商談相手のことを愚痴っていたのを思い出し、苦笑をもらす。
『彼との商談はすぐに終わるんだが、その後の雑談が長いんだ』
どうも、相手社長はブルースの父、トーマスと親友だったらしく。彼の死後もブルースのことを気にかけ・・・というよりも、幼い頃より知っているブルースを気に入ってとてもかわいがっているらしく。毎回、彼が来ないのならばこの話は無かった事に、と無茶苦茶を言うタイプの人物のようで。流石のブルースも彼との商談を断ることができない状態にあった。
どれほどめちゃくちゃなことを言われようと、ウェインコーポレーションにとってとても有益な人物に間違いはないのだから。
だから、今回も渋るブルースの背中を押して商談に向かわせた。だが・・・
整えられた冷たいシーツが広がるベッドに腰掛けると、ギシリとスプリングがきしむ音が響いた。
枕に顔を埋めると、心地よい匂いに包まれる。
「ブルース・・・」
欲していたのは彼だけではないのだ。だが、自分から「して欲しい」だなんて言えるわけもなく。何より、自分が呼ばれたのは早々に事件を解決するためであって、そういう事のために呼ばれたわけでもない。
一人前として認められ、こうやって頼りにしてもらえることはとても嬉しいし、誇りに思う。
それでも、あの指で触れられ、あの声で囁かれると・・・あの逞しい胸に縋り付きたくなる。
だからあの時・・・耳元で囁かれたときは、それだけで腰が砕けそうになった。
それでも何とか彼を送り出すことができた自分の自制心には驚きだ・・・ただ、触れられてもいないのに達してしまった事は情けなく思うが・・・
昼間のことを思い出し、下半身に熱が集まるのを感じそっとそこに触れてみる。
「っ・・・」
すでに少し立ち上がりかけている自身に苦笑し、
「まだ・・・帰ってこない・・・よね・・・・・・」
部屋の主が帰ってくる前に、一度だけ。と自分に言い聞かせて、パジャマのズボンと下着を一緒に脱ぎ捨てた。
「んっ・・・」
枕に顔を埋めたまま膝を立て、尻を突き出したかっこうでゆっくりとそこを扱き始める。
はじめは緩やかに、徐々に激しく手を動かし己を追い上げていく。
「あっ・・・あっ・・・ブルースっ・・・」
知らず知らずに口を付いて出る愛しい名前。ディックは空いているほうの手を顔の前に持ってきて。その指を、昼間、ブルース自身にしていたように舌を這わせた。
枕から感じるブルースの残り香が、さらにディックを追い上げる。
「んっ・・・ふぅっ・・・ブルース・・・あっ・・・はっ!あっ!!」
「・・・呼んだか?」
「っ!!!??」
あと少しで・・・というところで、急に背中から圧し掛かられ、尻を撫でられ耳元で囁かれ・・・
口から心臓が飛び出すかと思うほど驚いたディックは、大きく目を見開いてギギギ、と軋んだ音がしそうなほどぎこちない動きで振り向いた。
振り向いた先には、先ほどまで妄想の中で共に快楽を貪っていた相手。
だが、今は現実に、実際に目の前に彼がいて、自分に微笑みかけている。
「ん?」
どうした?という風に微笑んだまま首を傾げられ。頭から血の気が引くような、逆に一気に血が上るような感覚に襲われ訳がわからないままにシーツを手繰り寄せ己の身を包んだ。
「ブルース!!?なっなっなっなんでっいるの!!??」
声を詰まらせながら言うディックに、ブルースは事も無げに。
「ここは私の部屋だぞ?私がいるのは当然じゃないか」
「そうじゃなくて!!仕事は!!??」
まさかすっぽかしたんじゃないんだろうね!?と、噛み付かんばかりの勢いのディックに、ブルースはまさか、と言うように軽く肩をすくませ。
「先方がお疲れの様子だったのでね、商談も早々に終わったから帰ってきたんだよ」
人の良い笑顔で言われた言葉は、普通の相手なら何の疑いもなく信じるだろう。だが、ディックは彼の「本当」を知っている。この表情は・・・
「あんた、一服盛っただろ・・・」
じと目で言い返され、ブルースはくすくすと笑った。
「そんな物騒なことはしていない。ただ、近頃寝つきが悪いとおっしゃるので彼のコーヒーに安眠剤を混ぜただけさ」
それを盛ったって言うんだよ!!
一応正義の味方として活動してる人が、それでいいのか!?と、あまりのことに口をあんぐりとさせて固まっていると、
「安心しなさい。市販の物だからそれほど効果は強くないさ。今頃は、彼も自分のベッドの中でぐっすりだろうな」
と、微笑みを浮かべシーツに包まって固まっているディックににじり寄った。
「それで、お前は私の部屋でナニをしていたのかな?」
とても良い笑顔で言われ。もう、逃げられないと観念したディックはそっとブルースに口付けた。
軽く唇を合わせ、すっと身を引いたディックにブルースは優しい笑みを投げかける。
ディックは恥ずかしそうに少し俯き、小さな声で。
「いつから・・・見てたの・・・?」
その問いに、ブルースはディックの瞼や頬に口付けを落としながら、
「そうだな・・・お前がズボンを脱いでベッドに突っ伏したあたりか」
「っ!!」
ほとんど最初からじゃないか・・・!!
顎に手を当てて、考えるような仕草をしつつ言われた言葉に、恥ずかしさのあまり泣き出しそうな顔になった。ブルースはそんなディックに微笑みかけ、深く口付ける。
「私は嬉しかったぞ?欲しているのは、私だけかと思っていたから・・・」
優しい口付けとその囁きに、ディックはぎゅっとブルースに抱きついた。
欲しがっていたのは、彼だけではない。
「ブルース・・・っ!!?」
抱きついたまま彼の耳元でその名を呼ぶが、急にびくりと体を強張らせ息を詰まらせた。
ブルースが不意に、立ち上がったディックのものをその大きな掌でやんわりと包み込んだからだ。
「さっきは、途中で邪魔をしてすまなかったな」
先ほど、あと少し・・・と言うところまで追い上げられていたものは、すぐさま元気を取り戻し先端からとろりと蜜を溢れさせた。
「うぁっ・・・あっ・・・」
素直に甘い声を上げるディックにブルースは微笑み、キスの雨を降らせる。
額、瞼、頬、唇、顎、首筋、鎖骨・・・徐々にその位置を下げていき、ガウンの隙間からのぞくディック自身の先端にも口付けた。
「んくっ!」
途端、デックの体がびくりと跳ね上がる。
「次々と溢れて来るな、味は、どうだ?」
「ひあっ!!ああっ!!」
濃い色をしたガウンから、すらりと伸びた白い足に腕を回し抱え込み・・・その中心を咥え込む。
「うぁあっ!ブルース!ブルーっスっ!!」
熱い口内に包み込まれ、ディックは悲鳴に近い声を上げる。足に力が入り、ブルースの頭を挟みそうになるがそれは足を抱えている腕に阻止され、腰を引いて逃げることも出来ない。
ディックの反応を楽しむように強弱をつけてそこを攻めると、それに合わせるように声が上がり。ブルースの整えられた髪をディックの手がクシャクシャに掻き乱す。そのままきつく吸い上げるとひときわ高い声を上げ・・・ディックはブルースの口の中に熱い欲望を吐き出した。
強烈な快楽に体は大きく仰け反り、そのままベッドへ倒れこむ。
「あ・・・はっぁ・・・・」
胸を大きく上下させ、倒れたまま大きく息を吸うディックを見下ろして。ブルースは己の涎とディックの先走りでどろどろになった口元を手の甲で拭い、締めたままだったネクタイをシュッと抜き去り襟元を緩め。
「まだ、気をやるのは早すぎないか?」
と、意地の悪い笑みを浮かべ。自分はベッドに座ったまま、ディックの足を肩に掛け腰に腕を回し、背後から逆さまに、彼の体を抱えるような体勢をとった。
まだ呼吸の整わないディックは、初めはされるがままになっていたが。流石に非難の声を上げようとする。
「うっぁっ・・・ブル・・・スっ・・・やっ・・・・あっ!」
だが、抱えられたまま、奥まった場所にある蕾に舌を這わされ違う色の声を上げてしまう。
「んっ・・・ひぅっ・・・」
唾液を流し込むように、先を尖らせた舌がソコへ入り込む。まるで意思を持った生き物のように、入り口付近で蠢く舌にディックの思考はどんどんと奪われていく。
ブルースは、片腕をディックの腰に回して支えたまま。もう片方の腕を動かし、己の指を舐めると。
「少し、力を抜け・・・」
興奮に、少し荒くなった息のままそう言うと。
「ひっ!!あうっ!!!」
ディックの中へいきなり、二本の指を突き入れた。
いくら舌で慣らされていたとはいえ、ブルースの太く筋張った指をいきなり二本も咥え込まされ。ディックの足は跳ね上がり、その衝撃の大きさを表している。
「力を抜け、私の指を喰いちぎるつもりか?」
ブルースは楽しそうに笑みを浮かべ、中に指を入れたまま。もう片方の手で目の前にある立ち上がりかけているディック自身を支え、べろりと舐めあげる。
「そっ・・・んな、事。言われ、ても・・・っ」
その刺激にか細い悲鳴を上げつつも、ディックは己の体に反射的に入った力を抜いていく。
「そうだ・・・いい子だ」
太い指が、ディックの中をかき混ぜるようにぐるりと回される。そのたびに、ディックの体は電流が流れたかのように、びくびくと震え。
「ブルース・・・ブルー、ス・・・」
ゆっくりと、ディックの手が動き・・・
「・・・っ・・・ディック・・・」
背中に当たる、ブルース自身をなで上げた。
「ねぇ、あんたが欲しい・・・あんたを、僕に、頂戴?」
潤んだ瞳で見つめられ投げられた言葉に、ブルースはごくりと喉を鳴らし。
「うぁっ!」
ディックの中から指を引き抜き、彼をうつ伏せに寝かせ、腰を持ち上げる。
「ああ・・・好きなだけ私を喰らうがいい・・・」
スラックスを脱ぎ捨てる間も惜しいとでも言うかのように、ファスナーを降ろしそこから自身を取り出すと。そのまま、熱く猛ったソレをディックにあてがい、一気に貫いた。
その熱さと大きさに、ディックが悲鳴を上げる。だが、それは苦痛からくるものだけではなかった。
ブルースと一つになれる喜び、それが何よりも大きい。
「あはっ・・・・あっ・・・・」
手はシーツをぎゅっと握り締め、体も小刻みに震える。
「ディック・・・入れただけで、イッてしまったのか・・・?」
背後に覆いかぶさるようにして、ブルースが耳元で囁いてくる。
「ら・・・って、・・・今日、は。昼間、からずっ、と・・・お預けされて・・・たんら、よ?」
肩越しに振り返りブルースの顎に手をそえ、唇が触れるほど近くでディックが囁く。
ブルースはそのままその唇を貪りゆっくりと腰を動かし始めた。
「んくっ!ひゃあっ!!あんっ!!」
暗い部屋の中に響く水音に、甘い吐息。
ベッドにうつ伏せに押さえ付け、獣の様なスタイルで激しくディックを味わっていたブルースは。ディックの最奥に自身を埋めたままゆるゆると腰を揺らし、目の前の白い背中に赤い花を散らしてゆく。
「あぁっ・・・ぅぁっ・・・」
ディックはブルースのゆるゆると動かされる腰の動きにあわせ、自らも腰をふる。まるで、ブルースに与えられる感覚をひとつも逃さないとするかのように。
「・・・ブルースッ・・・ブルース・・・僕の、中。気持ち、いい・・・?」
ぐりぐりと、奥の奥まで味わい尽くすような動きをするブルースに、胸をベッドにつけて尻を高く上げた状態のまま、悪戯っぽい笑みを浮かべ肩越しにディックが尋ねる。
「ああ・・・お前の中、は。最高だ・・・」
荒い息を吐きながら、ブルースはそれに微笑み答え。
「んぁ・・・」
ディックの顎に手を添えてその唇を貪る。もう片方のては、ディックの握られた手を上から包み込むようにして握り。
「ディック・・・」
再び、徐々に腰を揺らす速度を上げていく。
「おっ・・・おぁっ・・・!!」
「あっ!!ああっ!!んっ!・・・いいっよ、出してっ!ぼくっのッ、中、にっ・・・ひっ!!!」
ぐっと強く突き上げられ、さらに深い場所に熱いものを感じ、ディックの体はがくがくと震えた。
「ふぁっ・・・あっ・・・・」
暫くの間、お互いに声も出せず。荒い吐息だけが部屋に響いていた。
「・・・ディック・・・ディック・・・・・・すまない」
しばらくの間、背後から抱きしめるようにディックの背に突っ伏していたブルースが不意に、体を起こして呟くと。
「・・・えっ・・・?ひぃあっ!!??」
繋がったまま、ぐるりとディックの体を反転させた。
「まっ・・・て、ブルース・・・っぁうっ!」
「すまない・・・自分でもっ、止められない、んだ・・・」
その言葉が示すように、ディックの中に納まったままのブルースはすでに大きく形を成して、その存在を主張していた。
「んっ・・・くっ・・・・・もう・・・しょうがないな・・・」
まるで、捨てられた子犬のような表情をするブルースに、ディックは眉をひそめ少し辛そうな顔を見せるが、すぐに優しい微笑を浮かべ。両手を差し出しブルースを抱き寄せる。
すでに三度も達した後で、はっきりいってかなり体力的にも辛かったが・・・
「ブルースの、好きにして・・・いいよ?」
天使のような微笑で、ブルースを包み込む。それを見て、安心したようにブルースも微笑を返し、ゆっくりと腰を動かそうと・・・・
「でも・・・」
したところで、ディックが小さく声を上げる。
何事か?と再び不安そうな顔をするブルースにディックは苦笑し、その額に軽くキスをすると。
「服、ちゃんと脱ごうよ・・・僕だけこんな格好ってずるくない?」
襟元を緩めただけのワイシャツのボタンを一つ一つゆっくりとした動作で外しながら言うと、そこで漸くブルースは、服も脱がずに事に及んでいたことを思い出したようだ。
器用に繋がったまま、片手でベルトとスラックスのボタンを外し、下着と一緒に脱ぎ捨てる。
ディックも、ほとんど腕にかかっているだけの状態になってはいたが、着たままだったガウンを脱ぎ。ワイシャツも脱ぎ捨てたブルースと再び抱き合った。
「んっ・・・いいよ・・・つづき、しよっか?」
その声を待ちわびていたかのようにブルースはディックに深く口付け、腰を揺らし始めた。
翌朝、ブルースの腕の中で目を覚ましたディックは酷く重たい自分の体を何とか動かしブルードヘイブンへと戻っていった。
ウェイン邸を出る前に、学校へ向かうティムと挨拶を交わしたが・・・何やらティムの様子がおかしかったような気がするのは・・・気のせいだろうか?
END
2008/09/06
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