KEYWORD:食事
COUPLE:Bruce/Dick、Tim→Dick、Jason→Dick
MARK:
誰でも読めるよ。




■お疲れ様、ありがとう■



『明日、食事に行くぞ。準備をしておきなさい』
「へ?」
 深夜。久しぶりに電話をかけてきたと思ったら、いきなりのそれ。
 何故?何処へ?と聞く間もなく、アルフレッドを迎えに行かせるとだけ言い。電話の向こう側の男、ブルースはこちらの返事も聞かずに受話器を置いた。
「・・・・・・なんなんだよ・・・」
 ここ数日、昼も夜も忙しすぎて。人と話すのでさえ久しぶりだったのに。かかってきた電話に出れば、たったそれだけの、会話にもなっていない簡潔なもの。
 すでに定期的な電子音しか聞こえなくなった受話器を置いて、大きく溜息をついたディックは。それでも、

 『食事に"行く"』ってことは、どこかに食べに行くんだよね・・・どうしよう、ちゃんとしたスーツあったかな・・・

 などと考え、言われたとおりに準備を始めていた。

 翌日、必要な事を何一つとして聞かされていなかったディックは一日外へ出ることも出来なかった。
 アルフレッドに電話をして聞けばいいのではないか、とも思ったが、彼も忙しい身だ。それに、運転中でも困る。
 不幸中の幸いか、この日は土曜日で昼間の仕事は休みだった。

 ブルースのことだから、夜は絶対パトロールに行くだろうし・・・ま、食事って言ってもきっとランチだろうな・・・

 そう思っていたのだが。アルフレッドから、今から迎えに行くと言う電話が来たのは昼過ぎで。食事は"ランチ"ではなく"ディナー"だという事もその時知らされた。
 そうなると、さらに服装の事で焦った。一応、自分が持っているものでブルースの隣に立っても恥ずかしくないものを選んだつもりだったが・・・

 そして、迎えに来たリムジンのドアをアルフレッドが開ける。乗り込もうとして車内を見たディックは、
「・・・どうした?」
 一緒に食事に行くのだから、当たり前といえば当たり前なのだが。ブルースがそこにいるという事実に驚いて動きを止めたディックに、ブルースが軽く尋ねる。
「あ、ううん。なんでもない」
 尋ねられ、正気に戻ったディックはとりあえず車内に乗り込んだ。
 バットマンとしては、ほぼ毎晩のように顔を合わしている相手なのに。こうやって素顔で、普段の姿で顔を合わすのは本当に久しぶりのような気がして。
「私の顔に何かついているか?」
「えっ?あっ、や、その・・・」
 じっとブルースの顔をみていたらしく、優しく微笑みそう尋ねられて。ディックは慌てて視線を外した。
 そこで、改めてお互いの格好があまりに釣り合っていないことを自覚する。
 確かに、口座にはそれなりのお金は入っているが。それは両親が残してくれた財産だ。ナイトウィングとしての活動にそれを使う事に躊躇いはないが、私生活となると話は別だ。
 ブルースの下を離れ、1人で生活するようになってからは、普通に生活する上で必要なものは自分で稼いだ金で買うようにしていた。今着ているスーツも、自分で選んで買ったものだ。
 デザインや着心地は気に入っているものだが。隣に立つ人物が悪すぎる。
 座席に深く身を沈めて、軽く、普通の人には気づかれないほど小さな溜息をついた。
「何か気になる事でもあるのか?」
 すると、隣にいる大富豪はそれに目聡く気づき、顔を覗き込むようにして尋ねてくる。
「たいした事じゃないよ。ただ、あんたの隣にいるには僕の格好は安っぽすぎるなって」
 無理に隠したりすると、隣の人物は納得するまで。それこそしつこいくらいに聞いてくるのはわかっている。ならば、特に気にする事ではない。と軽く言ってしまえばいい。
 肩をすくめて、軽いジョークのように言って、この会話を終わらせようとしたディックの思惑とは裏腹に。ブルースは顎に手を軽く添えて何かを考えるような仕草をすると。
「アルフレッド」
「はい、旦那様」
「予定変更だ。まずはいつもの店に寄ってくれ」
「かしこまりました」
 あまりにも簡単な会話をして、アルフレッドは車をある場所へ向かわせる。ディックは一体なんなんだ?といった風に首を傾げるだけだった。

「え。ここって・・・」
 そして、連れてこられたのは、いつもアルフレッドがブルースのスーツを購入しているブティック。
 ディック自身、ここには子供の頃に何度かつれてきてもらった事はあるのだが・・・。
 先に店に入っていたブルースが店長と2,3言葉を交わし。
「あら〜、久しぶりじゃないディッキー。大きくなったわねぇ〜」
 ちょうど店内に入ってきたディックを両手を広げて迎え入れた。
「お・・・お久しぶりです」
「さ、いらっしゃい。私がとびきりの男前にしてあげるわ」
 そして、ディックは店長に腕を引かれるまま店の奥へと入っていった。

 それから数十分後、再び車の中で。
 初め、ディックがこの車に乗ったときと同じ状態ではあるが。唯一つ違うのは、ディックのが着ているスーツが真新しいものだという点。
「・・・・・・。」
 自分で服のことを言った手前ブルースのとった行動をどうこう言えるわけではないが。
「僕のスーツは・・・?」
 あの店で、新しいスーツに着替えさせらて、そのまま再び車に戻ったので。捨てられたかな?と思いつつ自分が着てきたスーツの所在を尋ねてみると。
「ちゃんとアルフレッドが受け取ったさ」
 気に入っているんだろう?
 そう言われて、ディックは素直に頷いた。
 それを見て、ブルースはとても優しい笑みを浮かべ。
「・・・私は、あの服も似合っていると思うのだがな・・・」
「・・・え?何か言った?」
 とても小さなその呟きは、車のエンジン音でかき消され、ディックの耳には届かなかった。
「いや。・・・そろそろ着くぞ」
 小さく笑うブルースを不思議そうに見ていたが、そう言われて窓の外を見ると。
「ちょ、ブルースここ・・・」
 そこは、ゴッサム一夜景が美しいと評判の高級ホテル。本日のディナーはそこの最上階で、ということらしい。



 出される料理は最高においしいし、眼下に広がる景色も最上級のものだ。
 ただ、さすがに男2人でこんな場所でディナーというのは・・・妙な感じがしてならない。

 と、初めは思っていたのだが。
 いつもは必要以上に物を喋らないブルースが、珍しく色々話しかけてくる。
 その事が嬉しくて。とうに食事は終わっているのに、ディックもいろいろな事を話し、会話を楽しんだ。
 そして、漸く今日がどういう日なのかを思い出す。
 近頃は忙しくて、イベント事など頭から抜けていたのだが・・・。
「ね、ブルース」
 会話が少し途切れた所でディックはテーブルに頬杖をついて悪戯っぽい笑みを浮かべて声をかける。
「ん?」
「ティムでしょ?」
 相変わらずの笑顔のまま出された名前に、一瞬ブルースの動きが止まる。
「・・・な、何がだ?」
 あくまで白を切るつもりらしい・・・と言うよりも、おそらくティムに口止めされているのだろう。ブルースは何の事かわからない、といった風に首を傾げるが。
「やっぱりね。あんたから食事に誘ってくれるなんておかしいと思ったんだ。しかもこんな日に」
 ディックは、もう全てお見通しだという代わりにくすくすと笑った。
「ティムには感謝しないとね」
 バツが悪そうに頭をかくブルースだったが。微笑を浮かべたまま言われた言葉に、
「・・・そうだな」
 と、優しい笑みを浮かべ微笑み返した。
「じゃ、行こうか」
 そして、立ち上がり言ったディックの言葉に再び首をかしげる。
「次は夜のドライブでしょ?もちろん、あんたの運転で」
 魅力的なウィンクと共に言われた言葉にブルースは一瞬目を見開くが。
「ああ」
 頷き、彼もまた席を立った。






「何でこんな日にお前と一緒にいなくちゃなんねーんだ・・・っよ!!」
 目元だけ赤いマスクをつけた男。レッドフードははき捨てるように言うと同時に目の前の銃を持った男の腹を蹴り飛ばす。
「文句言ってないで・・・体、動かせ、よっ!!」
 そのすぐ傍で。ロビンがナイフを持った男を殴り飛ばした。
「あ〜あ、本当だったら今日はディッキーとディナーに」
「行けてる訳ないから安心しろよ」
 2人は軽く言い争いをしながらも、的確に周りの悪漢達を叩きのめしていく。
 だが、
「・・・つかさ、コイツ等どっから湧いて出るわけ・・・?」
 初めはほんの数人だった男達の数が、気づけばだんだんと増え始め。
「・・・近くにコイツ等の根城があるからね、そっからでしょ」
「・・・そこを先に潰しとくもんじゃねぇの?」
「お前が人の話し聞かないで突っ込むからだろ!?」
「そういう大事な事はもっと早くにだなぁ!!」
 喧々諤々と言い争いをしている間に、二人は完全に壁際へと追い込まれてしまった。
「・・・お前のせいだぞ・・・」
「なんでだよ!!」 
 それでもいまだ言い争いをしている2人は、手前にいた男が懐から何かを取り出し、投げた事に気づくのが遅れ。
「っ!?」
 それに気づいた頃にはもう、バッタランや銃でそれを撃ち落とすタイミングを逃してしまい。
 まずい。と思った瞬間、いきなりそれが爆発した。
 自分達は何も投げていないのに、そう思っていると、二人を取り囲んでいた悪漢達は何かに怯えるように後退りを始めている事に気づく。
「っ!?何で・・・」
 その視線の先を見上げれば。見慣れた大きな蝙蝠の黒い翼。
 蝙蝠が飛び立つと、悪漢達はいっせいに持っていた銃で撃ち落そうとするが、すぐに悲鳴を上げて手を押さえながらうずくまる。
 男達の手に当たり、傍に落ちたり壁に刺さったりしているものをみれば、それは見覚えのある鳥の形を模した手裏剣で。
 ロビンとレッドフードの傍に降り立った蝙蝠の隣に、寄り添うように青い鳥も降り立った。



 バットマンとナイトウィングが現れ、一気に形勢は逆転し。あっと言う間に悪漢達は取り押さえられ。彼らの根城も制圧されていた。

 ビルの屋上で。パトカーのサイレンを遠くに聞きながら、ロビンは納得がいかない様子でバットマンを睨み付けていた。
「・・・・・・。」
 そんなロビンの様子に、バットマンは居心地が悪そうに視線をそらし、顎を掻き。ナイトウィングはくすくすと笑っている。
「ロビン、そんなにバットマンを責めないで?僕が行こうって言ったんだから」
 しばらくそんな状態が続いていたが、バットマンに情けない視線を向けられて、漸くナイトウィングが助け舟を出す。
「なんで!?せっかく・・・」
「うん、十分楽しませて貰ったからね」
 柔らかい笑みでそう言われては、ロビンは黙るしかなかった。
「今日は1人でパトロールしてたんだろ?お疲れ様、ありがとう」
 そして、頭を撫でられて。ロビンは拗ねた様に唇を尖らせる。だが、その頬は薄っすらと赤く染まっていた。
「って、ディッキー!俺は!?」
 そんな3人の様子をしばし眺めていたレッドフードは、完全に自分の存在が忘れ去られていることに慌てて声を上げる。
「あ、お前まだいたの」
「・・・お前やっぱり酷い奴だな。知ってたけど」
 ナイトウィングに抱きつくようにしてロビンが言った言葉に、レッドフードは項垂れた。
「ジェイソンも、ありがとうな」
 ナイトウィングはくすくすと笑ってレッドフードにも礼を言うと。
「じゃあさ、お礼に今度一緒に・・・ってぇ!!」
「お前みたいな奴をずうずうしいって言うんだよ」
 ナイトウィングの手を取って何かを言おうとしたレッドフードの向こう脛をロビンが思いっきり蹴り上げる。
「てっ、め・・・よくもやりやがったな!!」
「正当防衛だよ」
「どこがだよ!!」
「ちょ、喧嘩するなって・・・!!」

 そんな3人を優しい表情で見守っていたバットマンは、幸せそうに小さく微笑んだ。


HAPPY VALENTINE'S DAY!


END

                                 2009/02/14











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