KEYWORD:翼
COUPLE:Bruce/Dick |
MARK:
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僕達は飛ぶ。 背中の白い翼を広げて。 誰よりも上手に。 誰よりも高く。 僕達は、飛ぶ。 三人で、ずっと、一緒に。 まぶしいスポットライトを浴びて、僕は笑顔で手を振っている。 両隣に、父さんと母さんがいて。 2人も僕と同じように笑顔で手を振って、 父さんが僕にウィンクをして、先に飛んだ。 後に続いて僕も飛び立つ。 そして、母さんと入れ替わって、僕はいったん着地する。 もう一度飛ぶために、振り向いた僕は、信じられないものを見た。 父さんと母さんの翼が散って、 真っ逆さまに、堕ちていく姿。 最初、僕は何が起こったのか理解をしていなかった。 ただ、2人が伸ばした手を無意識に捕まえようと、飛び出しかけたとき。 真っ黒な何かが、僕の体を包み込んでそれを阻止した。 『何で!?どうして止めるの!? 父さんと母さんのところへ行かせてよ・・・!!!』 泣いて、叫んで、暴れても、その黒い何かは強い力で僕を掴まえたまま、 放してくれなかった。 僕は涙を流したまま、その黒い何かを睨みつけ。 そこで、漸くその正体を知った。 凄く大きな蝙蝠が、その大きな翼で僕を包み込んで放さなかった。 そこで漸く、僕は自分の翼も散ってしまっている事に気づく。 それから、もう一度大きな蝙蝠を見つめた。 周りの人達はこの蝙蝠を怖がっていたけど・・・ 僕は怖いとは思わなかった・・・。 だって。 『・・・泣いてるの・・・?』 大きな蝙蝠の俯いた顔を覗き込んで、その頬に手を添えた。 そして、ふと気が付いた。 涙を流していたわけじゃないけど、 今にも泣き出しそうな雰囲気のこの大きな蝙蝠は・・・ 僕と、一緒なんだ・・・。 それに気が付いた僕は、この蝙蝠のそばにいたいと思った。 『・・・一緒に、いてもいい?』 控え目に言った僕を蝙蝠は優しく包み込む。 優しい蝙蝠に体を預けた僕の背中には、小さな黄色い翼が生えていた。 僕達は飛ぶ。 背中の黄色い翼を広げて。 隣には、大きな黒い翼。 僕達は飛ぶ。 誰よりも上手に。 誰よりも高く。 誰よりも早く。 僕達は、飛ぶ。 二人で、ずっと、一緒に。 夜の街、ビルの屋上。 吹き上がってくる強い風に、僕の黄色い翼がはためいた。 隣には、いつも大きな蝙蝠が一緒にいて。 怖いものなんて何もなかった。 一緒にいれば、何でもできると思っていた。 悪い奴をやっつけて、僕達は、街のヒーローだった。 それに、僕にはたくさんの友達も出来て。 毎日が、凄く楽しかった。 それなのに・・・。 いつも笑っているピエロの投げた小さな熱いボールに当たって、 僕は翼を失った。 蝙蝠は、堕ちた僕を助けてはくれたけど。 もう、僕の方を見なくなってしまった。 蝙蝠は、怪我が治っても僕が飛ぶ事を頑なに拒んだ。 そんな蝙蝠の傍にいることが辛くて、僕は蝙蝠から離れていった。 僕は、もう飛べないのかな・・・? そんな僕に、新しい翼をくれたのは太陽だった。 暖かくて、優しい太陽。 太陽のまばゆい光に包まれて。 僕の背中に、青い翼が現れた。 僕は飛ぶ。 背中の青い翼を広げて。 僕は飛ぶ。 誰よりも上手に。 誰よりも高く。 誰よりも早く。 僕は、飛ぶ。 たとえ、一人でも。 僕が青い翼を手に入れてから。 蝙蝠が、別の駒鳥と一緒にいる事を知った。 最初は、凄くショックだった。 でも、その駒鳥に会って、理解した。 蝙蝠は、この駒鳥を助けようとしているんだ。 駒鳥も、僕の翼を気に入ってくれたみたいで。 僕達は時々、一緒に飛ぶようになった。 でも、まだ・・・蝙蝠の所へ帰る事は出来なかった。 ・・・時々、顔を合わせるようにはなったけど・・・。 それでも、たくさんの友達に囲まれて。 時々、駒鳥が会いに来て。 それだけで、十分だった。 それなのに・・・。 いつも笑っているピエロが、 駒鳥を小さな箱に閉じ込めた。 そのせいで、蝙蝠が凄く傷ついて、荒れて。 それを僕に教えてくれたのは、また、違う駒鳥だった。 駒鳥は僕の腕を掴んで蝙蝠の所へ連れて行こうとする。 それどころか、昔の僕の黄色い羽根をかき集めて、 この羽根でまた飛んでと言う。 『・・・無理だよ・・・』 僕はもう、その羽根じゃ飛べない・・・。 でも、蝙蝠の事が気になっていた僕は蝙蝠の傍へ行った。 久しぶりに近くで見た蝙蝠は、とてもボロボロで、酷く弱っていた。 心が、酷く弱っていた。 僕は蝙蝠を抱きしめた。 あの日、初めて蝙蝠が僕の前に現れた時のように。 蝙蝠を僕の青い翼で包み込んだ。 僕の翼はそれほど大きな物ではないけれど。 それでも、蝙蝠が少しでも安心できるように。 もう、離れないから。 僕はいつでも、ここにいるから。 僕達は飛ぶ。 背中の青い翼を広げて。 隣には、大きな黒い翼。 そして、駒鳥も一緒に。 僕達は飛ぶ。 誰よりも上手に。 誰よりも高く。 誰よりも早く。 僕達は、飛ぶ。 皆で、ずっと、一緒に。 「・・・・・・。」 目を開けると、目の前には逞しい胸板。 ああ、夢を見ていたのか。 とぼんやりしながら、自分を抱きしめるようにして眠っている人物を起こさぬようにゆっくり顔を上へ向ける。 「・・・ぅぅ・・・」 すると、自分を抱きしめている人物が魘されている事に気が付いた。 そっと体を動かして、眉間に深く入っている皺にキスをして。頭を撫でる。そうすると、苦しそうだった顔が少し、穏やかになった。 優しく頭を撫でていると、自分の瞼も重くなってきているのを感じ。 眼前の黒い髪に鼻先を埋めるようにして、再び目を閉じた。 END 2009/02/05 |