KEYWORD:駒鳥3羽
COUPLE:Tim→Dick、Jason→Dick
MARK:
誰でも読めるよ。




■…少しばかり、優しすぎる■



 今日は久しぶりにディックが休みの日。
 事前にそれを聞きだしていたティムは、アルフレッド特性のランチが詰まったバスケットを持って、意気揚々と彼のロフトを訪れた。

 玄関前で逸る気持ちを抑えインターホンを押す。
 だが、暫く待ってみても、一向にディックが現れる気配がない。
 もう一度インターホンを押してみるが、結果は同じ。
 今日はちゃんと事前に確認をして、一緒にすごしてもらえるよう約束を取り付けた。突然の訪問ではない。
 まさか何か事件にでも巻き込まれた?
 玄関前でじっと待っている間に、だんだんと不安な気持ちが大きくなり。ティムは辺りを見回し誰にも見られていない事を確認してから、鍵が必ず開いている天窓へと移動した。

 窓から静かに中へと入り、様子をうかがう。もし、何者かがここへ侵入し、ディックに危害を加えているのであれば迂闊に声をかけたりするのは危険だ。
 だが、リビングの方から聞きなれた声がする事に気づき、危険性はないようだ、とほっと胸をなでおろした。
 だが、それと同時にならば何故、ディックは自分を迎えてくれなかったのだろう・・・と不思議に思い。そっとドアを開けて顔をのぞかせると。
「いい加減起きて離れろって!!」
 リビングに設置してあるテレビの前。ソファーに座ったままのディックが、下の方を向いて怒鳴っているのが見えた。
「ディック・・・?」
 控え目に声をかけると、ディックは少し驚いたようにティムの方へと顔を向ける。そして、すぐにその表情は申し訳ない、と言うような情けないものへと変わった。
「ティム・・・」
「勝手に入ってごめんね」
 ティムはすぐ傍にあったテーブルにバスケットを置いて、ディックが座っているソファーに近づく。
 その間も、ディックはソファーの陰に隠れていて見えない、彼の体にくっ付いている"何か"を引き剥がそうとしているのだが。
「あ、いや・・・それはいいんだけど・・・」
 ティムはソファーの前へ来て、怒りというかなんと言うか。とにかく複雑な気分になった。
 ディックの怒鳴り声を聞いたときから、なんとなくはわかっていたのだが・・・
「何でそんな状況に?」
 半場、呆れたように尋ねると。何故かディックがしょぼんとした表情になり。
「・・・支度して、ティムが来るの待ってたら・・・」



 朝、ディックはいつティムが迎えに来てもいいように支度を済ませ、彼を待っていた。久しぶりのオフに、ティムと出かける事をディック自身も楽しみにしていたのだ。
 そんな彼の耳に届くインターホンの音。
「なんだ、早いじゃな・・・」
 ドアを開けて、迎えようとして、動きが止まる。
「よぉ」
 そこに立っていたのは、今日一緒に出かける約束をしていた小さな弟ではなく。いつもどこをふらついているのか、気まぐれに現れては問題を起こして去っていく、大きな弟。
 ディックは無言で開けたドアを閉めようとするが、もちろん簡単に締めることができるはずもなく。
「ちょちょちょ!!いきなり閉めるこたねーだろ!?せっかくちゃんと玄関から来たのに!!」
「今日は先約があるの!!いいから帰れ!!」
「先約ってなんだよ!?女?」
「違うけど・・・とにかく帰れ!」
 暫くの間、ドアは少し開いた状態でそれ以上開く事も閉まる事もなかった。
 技やスピード、その他の要因を加えれば、ディックもジェイソンに負ける気はしないが・・・純粋に力だけを比べれば、大きく育ってしまった弟。ジェイソンの方がディックよりも強い。
 ほんの少し、ディックの力が弱まった瞬間。ジェイソンはドアに体当たりをして。その衝撃でディックはドアノブから手を離してしまい、尻餅をつくようにして倒れた。
「で、誰が来るんだ?」
 開け放たれたドアにもたれ掛かり、ジェイソンが意地悪い笑みを浮かべてたずめると、ディックは強かに打ちつけた尻をさすりながら。
「お前には関係ないだろ」
 と言い放つ。
「ふぅん」
 それが面白くなかったジェイソンは。
「ま、誰が来ようと俺の知った事じゃねぇけど」
 ドアを閉めるとご丁寧に鍵をかけ。座ったままだったディックに歩み寄った。



「で、この状態なわけ?」
 事の起こりを説明したディックに確認するようにティムが尋ねると、ディックはしょんぼりとした表情のままコクリと頷いた。
 今、ジェイソンはソファーの上でディックの腰にがっつりとしがみつき、彼の膝を枕に幸せそうに寝息を立てている。
「ごめんな?」
「ディックが謝る事じゃないよ」
 大きくため息をついたティムにディックが謝ると、ティムは苦笑して。
「とにかく、コイツ何とかしないとね」
 と、ジェイソンの服を掴んで思いっきり引っ張った。
 ディックもジェイソンの顔を押して何とか引き離そうとしているのだが、これがなかなか動かない。
「うっ・・・あっ・・・ま、待ってティム!痛い!痛い!!」
 そして上がるディックの悲鳴。
「本当にコイツ寝てるの?」
 何とかして二人を引き離そうと試行錯誤していたティムは、あまりの動かなさっぷりにげんなりとして言うと、同じく試行錯誤していたディックは苦笑して。
「寝てるのは確実だと思うけど・・・」
 と、ジェイソンの背中を優しく撫でた。
「・・・小さな子供がさ・・・寝てる時にタオルケットとかを絶対に離さないって話、何か思い出した・・・」
 その、あまりに自然な動作と呟かれた言葉に、ティムは目を見開く。
 おそらく先ほどの動きも、言った言葉の意味も。ディック自身は深く考えていないのだろうが。それはつまり、ジェイソンにとって一番安らげるのはディックの傍という事で。

 コイツに対してちょっと、優しすぎない?

 ティムは再び大きくため息をついて、立ち上がると。
「これじゃ、今日は出かけるの無理そうだね」
 と、もって来たバスケットをソファーの前のローテーブルへと移動させ。
「こないだ見たいって言ってた映画、何本かもってきたから、これ見ようか?」
 と、バスケットの中から数枚のDVDを取り出した。
「けど、お前。行きたい所あったんじゃないのか?」
「いいんだ。公園もテーマパークも逃げないしね」
 笑顔でそういうティムの頭をディックは優しく撫で。
「今度ちゃんと埋め合わせするからな」
「うん!約束だよ!!」



 それから、二人はティムが持ってきていたDVDを見ていたのだが・・・。
「・・・ティム?」
 不意に、トンッと軽くもたれ掛かってきたティムに、ディックが不思議そうに声をかけ、その顔を覗き込もうとして。
「・・・・・・。」
「なんだ、寝ちゃったのか」
 小さな寝息を聞いて、ディックは優しく微笑み。夜は何か事件でも追ってて、寝るの遅かったのかな?と、少しでも寝安いように優しく抱きよせ頭を撫でた。



「んっ・・・ふぁ〜あ」
 日が少し傾きだした頃、漸くジェイソンは目を覚まし。ディックから離れると、伸びをしてから大きなあくびをした。
 そして。
「ディッキー、オチビちゃんに少しばかり、優しすぎやしねぇ?」
 仲良く肩を寄せ合って眠るディックとティムの姿に、ジェイソンは面白くなさそうに呟いた。


END

                                 2009/01/08











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