■You And Me Just The One Day■



 それは、まだディックが大学生で。週末にウェイン邸へ帰ってくる、という生活をしていた頃の話。

 それは、昼過ぎの穏やかな日差しが降り注いでいたある日。
 大きな邸の大きな扉の前で。

 呼び鈴を押せば、いつもならアルフレッドが優しい笑顔で出迎えてくれるはずなのに。今日はいつまでたってもそれがない。
 不思議に思ってドアノブに手をかければ、それはすんなりと回ってディックを屋敷の中へと招き入れた。
「アルフレッドー?・・・ブルースー?いないのー?」
 扉を閉めて、大きな声で呼んではみるが返事はない。
 留守なのに鍵がかかっていないのはおかしいな。と首をかしげていると、キッチンの方からなにやら物音が。

 まさか泥棒?

 セキュリティは万全のはずだが、万が一、ということもある。
 ディックは息を潜めて物音がするキッチンへ向かい、そっと中を覗き込むと。ガタガタと音を立てて棚の中を引っ掻き回していたのは。
「・・・ブルース、何やってるの?」
 おそらく、今起きたところなのだろう。パジャマにガウンを羽織って、寝癖をつけたままのブルースが、そこにいた。
 声をかけられ、ブルースは弾かれたようにディックの方を向く。
「ディック・・・?」
 初めはディックが此処にいるのが不思議で仕方がないという顔をしていたが、すぐに今日は彼が帰って来る日だったという事を思い出し。
「ああ、もうそんな時間か・・・すまない、気付いてなかった」
「別に気にしなくていいよ。で、何してたの?」
 迎えに出なければいけないところを忘れていた事に、申し訳なさそうにブルースが言うと。ディックは苦笑して最初にした質問をもう一度した。
「ああ・・・コーヒーを飲もうと思ったんだが。豆やミルが・・・何処にあるか、わからないんだ」

 とりあえず、ディックはブルースに寝癖くらいは直したら?と顔を洗いに行かせ、その間に豆を挽き、コーヒーを淹れた。
 さっぱりして返ってきたブルースを椅子に座らせ、淹れ立てのコーヒーを出す。
「アルフみたいに美味しくはできないけどね」
 笑って言うと、ブルースはコーヒーの香りを楽しみ、一口飲んで。
「いや、旨いぞ。うん旨い・・・旨いぞ?」
 じっくりと味わい、嬉しそうに何度もそういうので。
「そんな・・・何回も言わなくていいよ」
 と、ディックは少し顔を赤くして。照れ臭そうに頭を掻いた。
 そうやって、ゆっくりとコーヒーを味わいながら。ブルースはディックに、今はアルフレッドが留守にしている事を伝えた。
 以前も彼は急に姿をくらました事はあったが。今回は、事前に数日間イギリスの家族の下へ行かせて欲しいと言われ。ブルースもそれに承諾した。
 それに、アルフレッドはあまり休みを取っていないことから。暫くゆっくりして、慌てて帰ってくる事はない。と自分から体を休めるよう提案した。
 本当なら、ディックが帰ってくる前日。昨日には帰ってくる予定だったのだが。
 濃霧で飛行機が飛ぶことができず、いつ帰ってこれるかわからない状態なのだそうだ。
「ああそれで・・・この状態なんだ・・・」
 それを聞いて、納得したようにディックが顔を向けたのは、汚れた食器がこんもりと重ねて入れられているシンク。
 この様子だと、洗濯物も溜まっているであろう事は容易に想像できた。
「・・・ブルース、今日の予定は?」
 そして、少し考えるような仕草をしてから、ディックはブルースに尋ねる。
「ん?・・・今日は特に何もなかったはずだが・・・」
「そっか。じゃあ、今日は部屋の掃除できるね」
 ブルースの返事を聞いて、ディックは笑顔でそう言うと。立ち上がって、シンクの方へ足を向ける。
「あ、そういえばブルース、ご飯は?」
 その途中で振り返り、再び尋ねると。ブルースはしばしあっけに取られていたが。
「もう済ませてある」
「じゃあ、ブルースは洗濯物集めといてくれる?僕はこれ片付けるから」
 アルフレッドが帰ってきた時に仕事溜めてちゃ休んだ意味がないでしょ?
 そう言われては、ブルースも動かざるえなかった。

 山積みにされた洗い物や、洗濯物を全て綺麗にし終えた頃にはそれなりに時間も過ぎて、あたりはすっかり暗くなっていた。
「晩御飯、どうする?どこか食べに行く?」
 流石に半日とはいえ広い屋敷の中を動き回って掃除や洗濯をしていた所為で、少し疲れた様子のディックがソファーにもたれながら隣に座るブルースに尋ねると。
「そうだな・・・私は・・・」
 ブルースは少し考えるように顎に手を添えて希望をいおうとした。だが。
「あ、電話だ」
 ちょうどタイミング悪く電話のベルが鳴り響き、ブルースは仕方なく受話器を取った。
 にさん電話の向こうの相手と言葉を交わしていたブルースだったが、だんだんその表情が険しくなっていく。
「・・・どうしたの?」
 電話を保留にして受話器から顔を離し、渋い顔のまま考え込むブルースに、ディックが恐る恐る声をかけると。
「・・・いや、今夜の・・・」
 どうやら電話の向こうにいるのはゴッサムの優良企業のトップクラスの人間で、今夜のパーティーにぜひ出て欲しい、という誘いの電話らしく。
「・・・行った方が良いんじゃないの?」
 それを聞いてディックはそう言う。
 相手はブルースの会社とも取引をしている企業だ、無下にできる筈もない。もちろんブルースもそんな事はわかっている。
 わかっているのだが。
「?・・・なに?」
 じっと自分を見つめてくるブルースに、ディックは不思議そうに首をかしげ、声をかける。
「いや・・・うむ。では、顔だけ出してくる事にしよう」
 当日になって呼ばれるくらいだから、少し顔を出せば先方も気がすむだろう。
 そう考え、保留を切ると出る事を伝えて電話を切った。
 それから、慌しくブルースはスーツに着替えて。
「あ、待って」
 玄関ホールに見送りにきたディックが、ブルースを呼び止める。
「タイ、曲がってる」
「・・・・・・」
 ブルースは、自分の正面に立ち、蝶ネクタイの歪みを直して満足そうなディックの肩に優しく手を置いて。
「お前は・・・夕食はどうするつもりだ?」
「ん〜・・・まぁ、冷蔵庫見て何か作って食べるよ。ピザ頼んでも良いしね」
「そうか」
 それを聞いても、ブルーフスはディックの肩から手を離さず。
「ブルース?」
「・・・ディック、"行ってらっしゃいのキス"は、してくれないのか?」
「!?」
 真顔でいきなりそんな事を言われ、ディックの顔が一気に赤く染まる。
「なっ・・・なっ・・・なっ・・・」
「昔はしてくれただろう?」
 驚きのあまり、口をパクパクとさせているディックに、ブルースは優しく微笑んでそう言った。
 確かに、ディックが幼い頃にそれをした事はあったが。
 それはテレビのドラマで、会社へ行く父親に子供達が頬にキスをしているのを見て、会社へ出る父親へはそういう事をするものなのかと思ったからしたわけであって・・・
 それをした時に、ブルースが酷く動揺していたことからその一度しか"行ってらっしゃいのキス"はしていない。
 良くそんなことを覚えているなぁと感心しつつ、赤い顔のまま顔を上げれば。
「ん?」
 優しく微笑んだままこちらを伺っているブルースと目が合った。
「う・・・」
 きっとブルースは、"行ってらっしゃいのキス"を受けるまで出るつもりはないだろう。
「・・・・・・行ってらっしゃい」
 首に手を回し、そっと抱きついて。頬に軽く触れるだけのキスをして言うと。
「っ!?」
 優しく唇を塞がれて歯列を舌でなぞられ。
「・・・行って来るよ」
 ゆっくりと唇を離し、髪をひと撫でして。ブルースはディックから離れてウェイン邸を出る。
「・・・なんだよ・・・もう・・・」
 残されたディックはへたりとその場に座り込み、熱いため息をついた。



 ブルースがいない間、ディックは簡単に夕食を作り、テレビや本を見て時間を潰していた。
 それでも、時間が流れるのを遅く感じ。
「パトロールでも・・・行ってこようかな・・・」
 テレビを消してソファーにもたれ掛かりながら、ポツリと呟きぼぉっとしていると・・・だんだんと瞼が重くなり。
「・・・・・・。」
 昼間、動き回ってい疲れていた所為か。ディックはそのまま眠りに落ちた。



「・・・ック・・・ディ・・・」
 遠くで、誰かが僕を呼んでいるような気がした。
「・・・ディック・・・」
 その声は優しく、僕を包み込んでくれる。
「起きなさい、ディック・・・」
 やだ・・・もっと寝ていたいよ・・・
 僕は頬に触れる温かい物にしがみ付いて首を振る。
「ディック・・・」
 すると、声は困ったようにまた僕の名前を呼んだ。
 ・・・あれ?初めは父さんかと思ってたけど・・・違う、この声は・・・・
「・・・ブル・・・ス・・・?」
 ゆっくりと目を開けると、ぼんやりとする視界の中に、困ったように・・・けど、優しく微笑んでいる彼がいた。



「こんな所で寝ていたら、風邪をひくぞ?」
 優しく頭を撫でられ、ディックは目をこすって、体を起こした。それからゆっくりと時計の方を見、首をかしげ。
「あれ・・・?忘れ物・・・?」
 ブルースはパーティーに行っていた筈だ。それから帰ってきたにしては時間が早すぎる。
「いや、一通り挨拶だけ済ませて帰ってきた。私がいることがそれほど重要とも思えなかったのでな」
 ブルースはタイを緩め、柱時計の隠し扉を操作した。
「パトロール?」
 ケイブへの入口が現れ、そこへ入ろうとするブルースに、ディックが声をかける。
「ああ。お前は、疲れているなら・・・」
「僕も行くよ」
 ブルースが全てを言い終わる前に、ディックはブルースに駆け寄り。そして隣でにこりと微笑むと、ブルースも微笑み頷いた。






 ゴッサムの街は相変わらず、子悪党達が小さな問題をそこかしこで起こしている。それらを片付けながら、ダイナミックデュオは夜の街をパトロールしていた。
 そして、夜もずいぶん更け、そろそろ戻ろうか・・・という頃に。マフィア同士の抗争が発生し、バットマンとロビンはそれを沈静させるために現場に向かう。
 2人で手分けして、ピストルやマシンガンを撃ち合っている2組のマフィア達をそれぞれ気絶させたり縛り付けたりしていったが。とあるマフィアの撃った銃弾がロビンの足を掠めた。
 その頃にはもう警察も到着していた事もあり、バットマンは残りは警察に任せてロビンを抱えバットモービルに戻った。
 モービルでロビンの傷を確かめると、それほど酷いものではなく・・・本当にただ掠めただけ、という事がわかり。バットマンはほっと胸をなでおろす。それでもやはり、破けたタイツから見える出来たばかりの傷は痛々しい。
 簡単に止血を済ませ、バットマンは急いでケイブに向かってモービルを走らせた。

「バットマン・・・いいよ、自分でできるから・・・」
 ケイブに戻ってきたバットマンは、まずロビンの傷の治療を始める。ただのかすり傷なのでロビンは自分でやると言ったのだが、バットマンはそれを許さなかった。
 タイツの上からでは、やはり詳細は分からない。バットマンは無言のまま、それ少し強引に引き裂いた。
「っ!」
 ケイブに布が裂ける音が響く。
 その行動は治療のためだとわかっていても、ロビンは思わずからだをすくませ、息を呑んだ。
 それから再び訪れる静寂。聞こえてくるのは道具を置いた時に出るかすかな音と、時折飛び立つこうもりの鳴き声と羽音だけだ。

 治療をされている間、ロビンはずっとそわそわと所在なさげにしていた。
「・・・何だ?」
 ちらちらと、何度も自分の方を見ては顔を伏せるロビンにバットマンが尋ねると・・・。
「・・・怒ってる・・・?」
 ロビンは節目がちに、申し訳なさそうに聞きかえしてきた。
「・・・何?」
「・・・さっきから、ずっと・・・黙ってるから・・・っ!?」
 しゅんとした顔でそう言った、次の瞬間。ロビンはバットマンの腕の中にいた。
「バ・・・バットマ・・・?」
 強い力で抱きしめられて、ロビンが驚いている間に。バットマンは彼を抱き上げそのままウェイン邸へと続く階段へ向かう。
「え?ちょっと!?ブルース!!?」
 流石にその腕の中から逃れようと、ロビン持て憂い甲を見せるのだが。バットマンは思いのほか強い力で彼を捕らえていて、逃げ出すことが出来ない。
 とうとう、柱時計の隠し扉をくぐり、ウェイン邸のリビングまでやってきたバットマンは。そのまま、大きな暖炉の前にあるソファーにロビンを下ろし。
「ちょっと、ブルーッ!!?」
 文句を言おうと顔をあげたロビンの唇を塞ぎ、そのままソファーへ押し倒した。 
 初めの内はじたばたと暴れていたロビンの動きも、バットマンに舌を絡め取られ、翻弄され。次第にゆるくなっていく。
「んあっ・・・はっ・・・」
 何度も何度も角度を変えて、ロビンの唇を貪っていたバットマンがゆっくりとはなれる頃には。すでにロビンの表情はトロンと解けきっていた。
「・・・せめて、部屋に連れて行こうと思ったんだが・・・」
 ロビンの髪を撫でながら、バットマンが優しく呟く。
「すまない、もう、耐えられそうにない」
 そう言って、バットマンはそっとロビンのベルトを外した。



 コスチュームの中にグローブをはめたままの手が進入してくる。
「んっ・・・あっ、ブル・・・」
「違うだろう?ロビン・・・」
「っ!」
 自分で脱ぐ、と言おうとしたのに。耳元で"そちら"の名前で呼ばれてびくりと体を震わせた。
「どうした?ロビン」
 バットマンは変わらないトーンでささやき、ロビンの耳を舐め。少し硬くなり始めていた胸の突起を探り当て、きゅっと摘んだ。
「うっ・・・あっ・・・バットマ・・・」
 バットマンの舌が耳から頬、首筋と伝い。ロビンはたまらずその太い首に腕を回して自らその分厚い唇に噛み付くようにキスをして、足をその逞しい太股に絡ませ、股間を押し当てるように腰を振る。
 邪魔な理性はもう、投げ捨てた。
 柱時計が時を刻む音しか聞こえないはずの夜のリビングに、二人の熱く、甘い吐息が響く。
「んぁっ・・・んっ・・・んぅっ!?」
 ロビンの体を這い回りってたバットマンは破けたタイツに指をかけ、更にそれをびりびりにする。
 そして、破いた場所から覗く素肌にグローブを外した手を這わせ、コスチュームの中に進入させた。
「はっ、あっ・・・バットマン・・・あっ!」
 コスチュームの中で押しつぶされ、窮屈そうにしていたロビン自身を掌で包み込み。
「うそっ!?あっ!」
 ロビンが抵抗するまもなく、バットマンはロビンのコスチュームを横にずらし、彼自身を引きずり出した。
「バット、マッ・・・はずかしっ・・・」
 両腕で真っ赤に染めた顔を隠しながら、いやいやをするように首を横に振る。
 バットマンはそんなロビンに微笑むと。
「ひあっ!!」
 露になったソコを口に含み、攻めあげる。
 急に与えられた強い刺激に、ロビンはバットマンの頭に手を伸ばすが・・・強すぎる快楽に太股を戦慄かせるだけで・・・その頭を押し退ける事も、貪欲に押さえつけることも出来ずに。
「あっ!ダメッ!!だっ、めっ・・・ッ!!!」
 そのまま、バットマンの口の中で果てた。



 広い横長のソファーに座るバットマンの横に、同じくソファーの上で、四つん這いになったロビンがバットマンの大きなソコを手や口を使って懸命に奉仕する。
 そんなロビンの形のよい双丘の間。コスチュームがずらされ露になったのその場所に・・・バットマンの太い指が3本、ゆっくりと出入りしていた。
「んっ、あっ・・・ブルーッスッ・・・もっ、あっ!うっ!」
 マスクに隠された瞳を潤ませ、ロビンがバットマンを見上げねだる様な声を出す。すると、バットマンはロビンの胎内に埋め込んでいた指をゆっくりおと抜き、ソレをぺろりと舐め。
「違うだろう?ロビン。それに、言いたい事があるのならハッキリと言いなさい」
 その髪や頬を優しく撫で、バットマンが囁く。
 ロビンはまるで魔法でもかけられたかのように、ゆっくりと体を動かすと。
「ちょう、だい?・・・バットマ、ン・・・」
 バットマンに見えるように、ロビンはソファーの肘掛に背を預け、自ら両足を抱えて足を広げ。バットマンの眼前にその場所を晒し、甘くねだった。
「ロビン・・・良い仔だ・・・」
 優しい声色でバットマンが囁き、ロビンに覆いかぶさる。漆黒のマントが広がり、まるでロビンを闇の中に隠すように包み込んだ。
「ひっ!あっ!?あっ!!くッ・・・ああああっ!!!!」
 ゆっくりと進入してくるモノの感覚に、ロビンは悲鳴を上げて背を仰け反らせ。
「あひっ!バット、マッ!バットマッンッ!!!」
 ぼろぼろと大粒の涙を流しながら、ロビンは自分の足を抱えていた腕をバットマンの首に回す。
すると、バットマンは少し浮いたロビンの背に腕を回し。自分よりも小さく細いその体を抱きしめ。
「あっ!?んあっ!あぅっ!!」
 そのまま抱き上げるようにして、ソファーに座り直した。
 下から突き上げるようにして腰を揺らせば、ロビンは甘い囀りを上げてしがみ付いてくる。それが愛しくて、嬉しくて、更に激しく突き上げた。
 激しい突き上げに、ロビンはただバットマンにしがみつく事しか出来ず。
「ばっとまっ!もっ!だっ、めっ!」
 涙を流しながら限界が近いことを伝えると。
「・・・イきなさい・・・」
 優しく微笑んだバットマンの手が、優しくロビン自身を包み込み。腰を揺らすリズムに合わせソコを扱き出した。
「ああっ!!あっ!もっ!イクッ!!でっちゃ!!あぁっ!!!」
「クッ・・・」
 いきなり自身にダイレクトに触れられて、ロビンはあっけなく追い上げられ。バットマンの黒いコスチュームを白く汚し。バットマンもロビンの胎内で欲望を弾けさせた。
「はっ・・・はぁっ・・・はッ・・・」
 2人は抱き合ったまま、荒い呼吸を繰り返し。
 バットマンは達したばかりで放心しているロビンの髪を優しく撫で、その顔を覗き込んで。
「私の・・・可愛いロビン・・・」
 聞こえていない事を理解した上で呟き、その唇に優しい口付けをした。






 翌日。ブルースはコーヒーと、パンの焼ける香ばしい匂いに目が覚めた。
 アルフレッドが帰ってきたのか?と思い体を起こすと、隣で寝ていたはずのディックの姿が見当たらないことに気づく。
 ガウンをはおり、キッチンに顔を出すと。
「あ、おはよう。ブルース」
 眩しい位爽やかな笑顔の、エプロン姿のディックがそこにいた。
「ご飯、食べる?」
 驚いた顔をして固まっていると、ディックがそう尋ねてきたので頷いて返事をする。すると、もう少しで出来るから、と顔を洗ってくるように言われ。ブルースは大人しくそれに従った。

 簡単に身だしなみを整えてダイニングルームへ向かうと、広いテーブルの上にはきつね色にこんがり焼かれたトーストに、スクランブルエッグ。簡単なサラダにコーヒーがきっちりと2人分準備がされていた。
「・・・お前が、作ったのか?」
 いつもどおりの自分の席に座って、隣に座っているディックに尋ねると。
「見てのとおり、簡単なのしかできないけどね」
 照れ臭そうに笑って言う、その可愛らしい笑顔に思わずブルースの顔も緩んだ。
 トーストを齧って、そういえば、こんな"ちゃんとした"朝食をとるのは久しぶりだという事を改めて思い出す。
 その事を素直に口に出して言うと、ディックは少し驚いたような顔をして。
「じゃあ、今までどうしてたの?」
「パンは焼くと何故か必ず真っ黒になってしまうのでな。シリアルを食べていた」
 腹も膨れるし、栄養も十分事足りる。真顔でそんなことを言われ、ディックは苦笑するしかなかった。
 本当にブルースは、アルフレッドがいないと普通の生活が出来ない人だ。そう思い、少々呆れつつも。そんな彼が可愛いと思っている自分がいた。
「ブルース」
「何だ?」
「付いてる」
 そこでふと、ブルースの顎にパンくずが付いていることに気づき、ちょっとした悪戯心でそれをまるでキスをするかのように、唇で取ると。
「お前も、付けているじゃないか」
 と、ブルースはディックの顎に手を添えて唇を合わせ・・・
「うぉっほん」
「「っ!!!!!」」
 あと少しで唇が触れ合いそうになったとき、ダイニングルームの入り口付近から聞こえた聞き慣れた咳払い。
「あっ、アルフレッド!?いつ帰ってきたの!?」
 ディックはブルースから凄い勢いでは慣れて、顔を真っ赤にしたままアルフレッドに尋ねると。
 彼はいつもの笑顔で。
「つい先ほどでございます」
「そ、そっか。お帰りなさい!!」
 ディックはアルフレッドに駆け寄って、笑顔で彼を迎え入れる。
 ブルースはそんな2人の様子を、少し複雑な表情で眺めていた。



END

                                 2009/06/13














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