今回の事件は、正直に言うと僕個人としてはとても良い思いをさせてもらった。当事者達はたまったものじゃなかっただろうけどね。 けどもし許されるなら、もう一度起こって欲しいと願ってしまうような状況だったんだ。 この事件が起こる数日前から、僕はロビンとして。バットガールと一緒にとある事件を追ってゴッサムを離れていた。 バットマンはブルース・ウェインとしてどうしてもゴッサムから離れる事ができなくて、僕達に任された。というわけ。 もちろんこっちの事件は万事解決させて、僕達はウェイン邸の地下・・・バットケイブに帰ってきたんだけど・・・。 「・・・アルフレッド?」 「お帰りなさいませ。ティモシー様、バーバラ様」 僕達を迎えてくれたアルフレッドの様子が、いつもと少し違う気がする。 「?」 僕とバットガールは互いに顔を見合わせ、もう一度アルフレッドをじっと見て・・・ 「アルフレッド、少し・・・若くなった?」 そう言ったのはバットガールだ。 「おや、お分かりになられましたか」 すると、アルフレッドは事も無げに。 「この歳になりますと10歳ほど若返ったとしてもあまり変わりはないと思っておりましたが・・・」 にっこりと笑顔でそんな事を言われ、僕達は怪訝な顔をする。 「"10歳ほど若返った"・・・?」 僕が鸚鵡返しに尋ねると、アルフレッドは頷いて。 「話せば長くなるのですが・・・」 「アルフレッド、ロビン達が戻ったのか?」 アルフレッドの声を遮って、バットマンがケイブに入ってきた。 ・・・けど、このバットマンにもなんだか違和感が・・・ 「お帰りなさいませ、旦那様。如何でしたか?」 「駄目だ、何の情報もつかめない。まったく、あいつはいつも余計なモノを運んでくる」 「「・・・っ!!?」」 アルフレッドと会話をしながらマスクを脱いだバットマン・・・ブルースの顔を見て、僕とバットガールは声も出せないくらいに驚いた。だって。 「ブルース!?若っ!!!」 目の前に立っているブルースは、どう見ても20代の青年だったから。 「・・・・・・と、言うわけだ・・・」 コンピュータの前の椅子に座って、事の次第を話してくれたブルースの仕草はいつもと変わりないものなのに、"顔"は若いし、体つきもなんだか細く感じる。 話された内容を頭の中で簡単にまとめる。 原因は、スーパーマンが連れてきた宇宙生命体にあるらしい。 さっき言ってた、"あいつ"っていうのはスーパーマンの事だったみたいだね。 連れてきた。と言うと語弊があるけど・・・つけて来られてる事に気付いてないあたり、あの人らしいと言うか・・・。 まぁ、とにかく。スーパーマンがバットマンに相談に来たところを、ついてきた宇宙生命体の怪光線?に当てられて、若返っちゃったようで。 運悪く、そこに居合わせたアルフレッドも巻き込んで。 おまけに厄介事を持ち込んだスーパーマン自身には何の影響もなかったみたいでさ。 そりゃ、ブルースも機嫌悪くなるよね。 「まだ10年程度で済んだから良かったものの・・・いまだに元に戻る方法が見つからん」 はぁっと大きな溜息をついて、ブルースは眉間を押さえた。 宇宙生命体は何とか退治したけど、それでもブルースたちの姿は元に戻らなくて。スーパーマンとバットマンは、それぞれのやり方で元に戻る方法を探してるらしい。 それから暫く、これからのことを話し合っていたんだけど。 突然。 「うわぁ!!」 ケイブの奥のほうから高めの少年の声が響いて、それが聞こえた瞬間ブルースは素早い動きでその声の方へ走って行った。 「え・・・何・・・?」 「さあ・・・」 僕とバーバラは互いに顔を見合わせて、ブルースのあとを追う。 「・・・大丈夫か?」 そして、漸く追いついた僕たちが見たのは。 「少し転んだだけだよ。心配しすぎ・・・」 トレーニングマシンの傍で座り込んでいた少年をまるで壊れ物でも扱うように、優しく手を添えて立たせているブルースの姿。 「あ・・・」 僕は驚きと感動で声を上げることが出来なかった。 だって・・・ 「2人とも帰ってたんだ。お帰り、お疲れ様」 そういって微笑んだ少年は、紛れもなく僕の憧れの・・・。 「・・・ディック・・・?」 バーバラが驚いた声で彼の名を呼ぶ。 少年、ディックは苦笑いを浮かべながら。 「うん、見てのとおり。子供に戻っちゃってるけどね」 運が悪かったのはアルフレッドだけじゃなかったらしい。 僕は興奮のあまり鼻血を出しそうになりながら、努めて冷静に状況を判断した。 事件が起こったちょうどその時、ディックもここにいたわけだ。 それにしても・・・ 「ディック、ほんとに小さくなったわねぇ・・・ちょっと懐かしいかも」 バーバラがそう言いながらディックの頬を摘む。 「ちょ、やめてよ」 ディックはその手から逃れ、抓られた頬をさすると、唇を尖らせ。 「見てるほうは懐かしいかもしれないけど、こっちは不便で仕方ないんだから」 ぷくっと頬を膨らませてそういうディックはとても・・・可愛い・・・。 っと、そんな事考えてる場合じゃなくて。 確かに。180近くあった身長も、今は僕より小さくなってしまっていて・・・日常生活にも支障が出てるんじゃないかな? 「で・・・これから、どうするの?」 バーバラに弄られているディックを横目に・・・カメラ用意しとけばよかった・・・ブルースに話しかけると。彼は緩んでいた表情を引き締めて。 「元に戻る方法が見つからない限りはこのままでいるしかないからな・・・」 切替が早いと言うか上手いと言うか、さっきまでの緩みきった表情とは一変して険しい表情で僕と話し始める。 ・・・あんな表情のブルースを見たのは初めてかもしれない・・・やっぱり、カメラ用意しておけばよかった。 この場所にしては珍しく、凄く和やかな雰囲気だったのに、それをぶち破るようにケイブの中にアラームが響いた。 「バットガール、私と来なさい」 ブルースはさっとマスクを被りバットマンになると、バーバラに声をかけて走り出した。 「僕も・・・!!」 走り出したバットマンの背に、ディックが声をかけたけど。 「駄目だ、ディックは外に出ないように。ロビンは待機していなさい」 「「えー!!!」」 バットマンは振り返らずにモービルに乗り込んで、バットガールと共にすぐにケイブを飛び出して行った。 ケイブに残された僕達のブーイングはバットマンの耳には届いていなかっただろう。 けど、声が合わさったのは嬉しかったから・・・まぁ、いいか。 ケイブに残された僕らは、アルフレッドが持ってきてくれたおやつを食べてたんだけど。 「この姿になってから、ずっとああなんだよ!?」 アルフレッド特性のドーナツを頬張りながら、ディックはぷりぷりと怒っている。 「じゃあ、一度も外にはいってないの?」 口の中にあったドーナツを飲み込んで、僕がそう尋ねると。 「散歩くらいは行くよ?けど・・・パトロールとかは、一度も連れてってくれないんだ・・・」 しゅんと表情を曇らせてそう言ったディックの頭を、僕は思わず撫でそうになった。 大人の時の彼もそうだったけど。子供の彼は、それに輪をかけて表情が豊かだ。 「・・・ティム?」 ・・・やっぱり、可愛いなぁ・・・ そんな事を思っていると、急にディックが僕を見つめて小首を傾げて僕の名前を呼んだ。 「ん?」 「僕の顔に何かついてる?」 「ドーナツついてる」 あ、そんなにじっと見てたかな?と思いつつ、本当に口の端にドーナツのかすを付けてたからそう言って。 そっと彼の顎に手を添えて、それをぺろりと舐めとった。 「っ!!?ティム!!?」 「何?」 ディックは一瞬固まって、そしてすぐ顔を真っ赤にして僕の名前を叫んだ。 「何するんだよ・・・!!」 「何って、ドーナツ取っただけだよ?」 僕が笑顔でそういうと、ディックは顔を真っ赤にしたまま暫く何か言いたげに口をパクパクさせて。 それでも言葉が出てこなかったのか、またドーナツに噛り付いた。 ああ、やっぱり一可愛いな〜。 なんて、人がいい気分になっている所に、ケイブに響く無粋なアラームの音。 ディックはすぐ真剣な顔になって、コンピュータの前に走っていった。 もちろん、僕もね。 「バットマン達が行ったのとは別件か・・・」 コンピュータの解析を見ながら僕は呟いた。 バットマンからのコールかと一瞬思ったけど、それとはまったく関係ない場所で、まったく別のヴィランが何かやらかしたらしい。 表示された座標を確認して、そこへ向かおうと外していたケープを纏って歩き出した僕は。ふと、足を止めてディックのほうを向いた。 「あ・・・」 思ったとおり、ディックは寂しそうな顔をしていた。 「・・・・・・。」 バットマン・・・ブルースが彼を連れて行かないのはまず間違いなく、彼を危険な目に合わせたくないからだ。 子供になってしまったディックは、今まで通り・・・大人だった頃と同じように動く事は出来ない。リーチは短くなっているし、体力もパワーも落ちている。 だから、パトロールにも連れて行かなかったのはわかるんだけど・・・。 「僕のことは気にしないで?この姿じゃ、着れるコスチュームもないしね」 ディックは立ち止まったままの僕に微笑み。 「行ってらっしゃい。気をつけてね」 「そういえば、旦那様に昔のコスチュームを整頓しておくようにと仰せ付かっていたのを忘れていましたね・・・随分と古いものもあると仰っていたので、一着なくなったところで気付かないでしょうなぁ」 僕達が食べ終わったドーナツの入っていた皿やマグカップを片付けていたアルフレッドが、独り言のような口調にもかかわらず大きな声で言って、そのままウェイン邸へ戻っていった。 「・・・・・・。」 僕達は顔を見合わせて、もう使われていないコスチュームが置いてあるエリアに駆け込んだ。 「・・・これ・・・」 そこにあったのは、"昔の"と言うには綺麗過ぎるロビンのコスチューム。明かに新しく作り直されたそれは、当時ディックが着ていたものよりも防御力は上がっているようだ。 それにしても・・・ 「・・・ブルース・・・」 ロビンのコスチュームをギュッと抱きしめ、嬉しそうにしていたディックを眺めながら。僕が思ったのはただ一つ。 ・・・・・・ディックの生足は・・・絶対なんだね、ブルース・・・ コスチュームに着替えたディックと僕は、モニターに表示されてた座標のすぐ傍のビルの屋上に到着した。 「ちょっと見てくるから、合図をするまでここでまってて?」 ディックが頷くのを確認して、僕はワイヤーを投げてビルの下へと降りて行った・・・。 ティムが降りていくのをじっと見つめて、彼の姿が見えなくなってから。僕は小さなため息をついた。 本当は一緒に行きたいけど、今の僕じゃ足手まといになるのはわかってる。 今は、ティムの合図を待つしかない。 しばらくの間、そうやって待っているとティムの合図が見えた。 それに気づいて、僕もワイヤーを投げて下に下りようとした瞬間。 「っ!?」 嫌な感覚がしてばっと後ろを振り返った。 「・・・ジェ・・・」 「お前は誰だ。何故そのコスチュームを着てる」 そこには明らかに殺気立ったジェイソン・・・レッドフードが、こちらを睨み付けていた。 ヤバイ、そう思った瞬間に僕は横に飛ぶ。 「待ちやがれ!!」 ジェイソンはフルフェイスのマスクを脱ぎ捨て僕を追いかけてきた。 頭に血が上った状態のジェイソンは人の話なんて聞きやしない。何とか押さえつけて、こっちの話を聞かせられる状況にしないと・・・ 僕の命に関わる・・・!!! 僕は走る速度を緩め、背後から飛び掛ってきたジェイソンの頭に手を付いて体を反転させ、そのまま全体重をかけてジェイソンの背中に膝蹴りをいれて、そのまま飛びのこうとした。 「うわっ!?」 だけどその瞬間、足をつかまれて地面に叩きつけられた。 何とか受身を取ったものの、硬い地面に体を打ち付けて一瞬動けなくなった僕の上に馬乗りになって、ジェイソンはさらに僕の首に手を掛けて。 「お前は誰だ!!何で・・・」 「くッ・・・はッ・・・」 苦しくて、ジェイソンの腕を力いっぱい掴んで抵抗したけど。ジェイソンはピクリとも動かない。 この馬鹿力・・・!! そんな事を思っていてもジェイソンの腕の力が弱まるわけもない。 まずい・・・このままじゃ・・・ 「・・・・・・」 本気で意識が遠のきかけた時、不意にジェイソンの手の力が弱まった。 「・・・げほっ・・・っ・・・かはっ・・・はっ・・・はっ・・・」 塞がれていた気道に空気が入ってきて、少し咳き込んだ後、僕は大きく息を吸い込んだ。ぼんやりとする視界で、僕に馬乗りになったままのジェイソンを見上げると、あいつは真剣な顔をしたまま僕に顔を近づけてきて。 「お前、ディックなのか・・・?」 尋ねられて、力なく頷いた。 何で僕だってわかったのかはわからないけど。これで、殺される心配はなくなった・・・かな? 「なんだってこんな事に・・・いっ!?」 ジェイソンはさっきまでの怒り狂った状態とは打って変わって、申し訳なさそうに僕の頬を撫でて・・・ いきなり倒れこんできた。 「!?ジェイソ・・・・・・ティム?」 ジェイソンの頭を抱えて体を起こすと、 「ディック、大丈夫!?」 ティムが心配そうな顔をして駆け寄ってきた。手にはロッドを持って・・・。 「う、うん。ちょっと背中とか痛いけどね」 苦笑いしながら言うと、ティムは僕の腕の中にいたジェイソンを思いっきり突き飛ばして・・・何か鈍い音が聞こえたような気もするけど・・・僕を抱きしめた。 「合図出してもなかなか来ないから心配したよ・・・」 「ん・・・助けてくれてありがとう・・・」 今にも泣き出しそうな声のティムの背を感謝の意を込めて撫でながら声をかける。 「いってぇ・・・この野郎なにしやが!!」 「ディック殺しかけた奴が何を偉そうに言ってるんだ」 ジェイソンは・・・多分殴られたのは頭だろう・・・その部分をさすりながら涙目で怒鳴ろうとしたけど、 「・・・ディッキーだって知らなかったんだから仕方ねぇじゃん」 ティムの一声で言葉を詰まらせ、拗ねた様に呟いた。 「で、何でお前がこんな所にいるんだよ。まさかここで騒いでたのはお前じゃないだろうね」 僕はディックとあいつの間に立って、あいつを睨み付ける様にして言った。 合図を出してもなかなか来ないディックを心配してきてみれば、ケダモノの様なあいつに馬乗りになられて、足をばたつかせてるディックの姿。 それを見た瞬間、僕は思いっきりあいつの後頭部をロッドで殴りつけ、さらに拳で殴り飛ばしてディックの上からどかした。 なんだか鈍い音がしたけど、気にしない。 「ちげーよ。何かこの辺が騒がしかったから来てみただけだ・・・そしたら・・・」 僕が殴った箇所をさすりながら奴はそう言って、申し訳なさそうな視線をディックのほうへ向ける。 今更そんな顔したってもう遅い。たとえ分からなかったとは言え、ディックを殺そうとした事実は変わらない。 「そんな顔するなよ。僕はもう気にしてないから」 ・・・・・・ああ、うん。分かってたけどやっぱり・・・。 「ディック、あいつに甘すぎ・・・」 「そうかな?」 僕が溜息をつきながら言うと、ディックは苦笑して小首をかしげた。 「ジェイソンがああなっちゃうのも、ある意味仕方のない事だったんだよ。"コレ"は僕のでもあるけど・・・あいつのでもあるんだから」 ディックは自分が着ているコスチュームの胸元を摘んで言った言葉。確かに、ディックとあいつのロビンのコスチュームは同じものだった・・・そんな事を言われたら、僕は何も言い返せなくなるじゃないか・・・。 そして、ほんの少しだけ静かな間ができたけど。 「それにしても・・・」 すぐにディックが思い出したかのようにポツリと声を出した。 「お前、よく僕だって分かったね?」 言われて、あいつは一瞬驚いたような顔をして。 「あ・・・ああ。だって、ディッキーの匂いしたからな」 「「は?」」 自慢げに言われた言葉に僕とディックはそろって声を上げた。 「え・・・?僕ってそんな変なにおいしてるの・・・?」 なんだかショックを受けている声色のディックに向かってさらにあいつは。 「変っつーか・・・嫌な匂いじゃなくて、こう・・・下半身直撃するような」 「盛った犬かお前は」 引き気味のディックに変わって僕は呆れたように言った。 とりあえず前言を撤回させてもらおう。"ケダモノの様な"じゃなくて、こいつは正真正銘"ケダモノ"だ。 ・・・気持ちはまぁ・・・分からないでもないけど。僕はそんな事を口に出して言ったりしない。 僕は盛大に溜息をついて、 「・・・とにかく、今回の事件は解決するまでお前も手伝えよ?」 「あぁ!?何で俺・・・」 「ディックをあんな目に合わせた奴に拒否権があるとでも?」 拒否の言葉を遮ると、あいつは悔しそうに、だけどさらに申し訳なさそうに言葉を詰まらせた。 こんな奴でも居ないよりはましだ、曲がりなりにもバットマンの訓練を受けた男だからね。ネタに使わせてもらって、ディックには悪いけど・・・暫くはこれで言うことを聞いてもらうとしよう。 それから三人で行動するための作戦を立てている最中に、あいつはディックに面と向かって可愛いなんて言って、思いっきり顔面を蹴られてさらに踏まれていた。 馬鹿な奴だ。ディックにそんな事言ったら怒るに決まってるじゃないか。 ・・・踏まれている時の奴がなんだか嬉しそうだったような気がしたのは気のせいと言うことにしておこう。 うん、その方が良い。 頭の中を切り替えて。僕は二人に現状を説明する。 さっき僕が見に行ってきた、コンピュータに表示された座標の場所。 そこにあったのは一見普通の倉庫だった・・・ けど、その周りには"いかにも"って感じの見張りが数人立っていた。 麻薬の密売か武器の売買か。倉庫の中ではさらに円卓を囲んで、これまた"いかにも"って感じの男達が話し合いをしていた。 「んじゃぁとっととそいつら絞めちまおうぜ」 「そうだな、こんなのはさっさと済ませたほうが良い」 あいつの言葉に僕は頷いた。奴と同意見というのはあんまり嬉しい事じゃないけど、実際、こういうのは話し合いが終わる前に、全員を縛り上げてしまった方が良い。 物的証拠もあるし、警察も簡単に逮捕できるしね。 と、言うわけで。 僕達は倉庫の天窓を蹴破って中に潜入し、バットマンが別の場所にいるからと油断していたマフィア達を殴り飛ばして次々と縛り上げていった。 それなりに数はいたけど、それでも、バットマンたちが応援に駆けつけたときにはもうほとんど片付け終わった後だった。 後は警察を待つのみだ。 「・・・お前が手伝っているとは・・・珍しいな」 そんな時。僕達と一緒に行動していたあいつに、バットマンは流石に驚いたらしくて声をかけた。 「・・・・・・深い訳がある・・・」 「ボーイワンダーを殺しかけたんだから当然だろ」 「おまっ!!」 あいつははぐらかすような物言いだったから僕が代わりに真実を言ってやった。 もちろん、ディックを・・・今はいつも以上に・・・大事にしているバットマンがそれに反応しないはずもなく。 「ほう・・・後で詳しく聞かせて貰おうか」 そんな事をしていたせいで、僕達はこちらに向けられた銃口に気づいていなかった。 一発の銃声が鳴り響き、バットガールと話をしていたボーイワンダー、ディックの体がその後ろにいた僕の方へと倒れこんできた。 僕は慌ててその体を抱きとめ、その瞬間にバットマンは銃声が聞こえた方へと飛んでそこにいた男を殴り飛ばした。 「ディ・・・ボーイワンダー?」 腕の中に倒れこんできた彼の名前を恐る恐る呼ぶと、彼はゆっくりと目を開けて。 「いっつ・・・」 撃たれた左胸の部分を触りながら体を起こした。 「だ・・・大丈夫なの?」 バットガールが尋ねると、彼は苦笑して。 「ん、びっくりしたけどね」 と胸元からひしゃげた鉄の塊を取り出して。 「バットマン、かなり頑丈にこのコスチュームを作ったみたいだね。お陰で助かった」 ちょうど胸の部分にあったRのマークは衝撃で破れてしまっているけど、その下の防弾部分で弾は止まり。ディックは致命傷を受けることはなかったようだ。 「・・・バットマンは・・・?」 ほっとしている僕達に、ディックが少し寂しそうに尋ねてきた。 そういえば、銃を撃った男を殴り飛ばして・・・ 「「「・・・!!!」」」 それを聞いてバットマンが戻ってきていない事に気付いた僕達は、彼が飛び出した方向に顔を向けて本気で驚いた。 だって。 「ちょ、バットマンまだ殴ってたの!?」 「やべえぞありゃ、もう殴り殺して・・・」 「物騒な事言わないで!!早く止めなきゃ!!」 僕達は様子が見えていなくて状況が飲み込めていないディックはその場に残して、3人で男を殴り続けているバットマンを押さえにかかった。 けど、周りの見えていないバットマンは僕やバットガールを投げ飛ばし、あいつを殴り飛ばし・・・あいつ今日だけで何回殴られてるんだろ・・・治まる様子を見せない。 どうにか3人で腕を掴んで動きを止めさせるも、少しでも力を緩めればすぐまた男に飛び掛りそうで。 「みんな、そのまま押さえてて!!」 そう、ディックの声が聞こえた次の瞬間。 「バットマン、ごめん!!」 ヒュッ 風を切る音が聞こえたと思ったら、バットマンの脳天に綺麗にボーイワンダーの空中一回転踵落しが決まっていて。 「がっ・・・」 バットマンから力が抜けて。僕達も押さえていた力を抜くと、彼の眼前に着地したディックの腕の中に倒れこんだ。 「・・・さて、警察が来る前に僕達は移動しておいた方が良いね。バットガールとロビンは警察に説明をお願い。レッドフードはバットマンを運ぶの手伝ってくれる?」 優しくバットマンの頭を抱きかかえて出された指示に、僕達は素直に頷くしかなかった。 僕とバットガールが警察に説明を終えて、あいつとディックが気絶したバットマンを連れて行った場所。最初に僕達がいたビルの屋上へと移動した頃には、すでにあいつの姿はなかった。 バットマンをここへ連れてきて、二言三言話をしてすぐにあいつはどこかへ行ってしまったらしい。 「もう十分手伝ってもらったからね」 まぁ、ここにいたくない気持ちは分からないでもない。 ボーイワンダーの膝枕で眠るバットマンなんて、あいつにしたらあてつけ以外の何者でもないだろう。 僕としてはシャッターチャンスなんだけど・・・隠しカメラもっといてよか・・・いや、なんでもない。 「う・・・」 「あ・・・気がついた?」 そうこうしていると、バットマンも目を覚ましたらしい。 「私は・・・ッロビン!?」 始めはぼんやりと頭を押さえていたバットマンが急に頭を上げてディックの両腕を掴んだ。 「い・・・痛いよバットマン」 「痛い!?やはりあの時撃たれていたの・・・」 ゴスッ 「落ち着いてバットマン」 バットマンの取り乱しっぷりがあまりにも酷いので、僕はロッドでバットマンの頭を小突いた。 「ボーイワンダーに怪我はないわ」 僕が呆れているのを見かねたのか、バットガールが苦笑してバットマンに説明をする。 「何?・・・しかし、あの時・・・」 そこで漸く落ち着き始めたバットマンは、力いっぱい掴んでいたディックの腕から手を離した。 あ〜あ、ディックの腕に痕ついちゃってるじゃないか・・・。 「バットマンのおかげだよ?」 それでもいまだ心配そうにしているバットマンに、ディックは微笑みかけて胸のRのマークがあった場所を撫でた。 「あんたがこれを用意してくれたから、僕は無事だったんだ」 うん・・・なんていうか・・・ 「ありがとう、バットマン」 「ロビン・・・」 見つめ合ってる二人は昔のダイナミックデュオそのままで・・・ どれだけ顔が緩むのをガマンしたか・・・!!! 「ね、そろそろ帰らない?」 あ・・・ バットガールの声で僕と、見つめ合ってたダイナミックデュオは我に返った。 「そ・・・そうだね、帰ろうか」 ディックは恥ずかしそうに笑って、僕はその言葉に笑顔で頷き、バットマンは顔をそむけて咳払いをしていた。 結局、この若返り事件はこの日からさらに一週間ほどで自然と解決された。 ディックから順に、ブルース、アルフレッドと一日おきに元に戻っていったんだけど。 ディックはともかくブルースとアルフレッドは少し残念そうだったね。 まぁ、そんな感じで。 今回の事件は本当に、僕にとってはとても良い思い出だった。 他にも良い思いはさせてもらってたんだけど。それはまた別の機会に。 その気になったら聞かせてあげるよ。 END 2009/03/31 |