■Baby Doll■



 静かな夜。
 街の人々はすでに寝静まっている、そんな時間帯。
 今夜は特に何事もなく、パトロールも終わって早々にベッドに入り眠りにつこうとしていたディックは・・・
「Good evening,Dickie.」
 横になった途端に耳元でそう囁かれ、不機嫌な顔で身を起こした。
「・・・こんな時間に、なんの用だ?」
 何処から?どうやって?そんな質問は彼を初めこの部屋を訪れる者達には意味を成さない。まぁ、あえて受け入れている部分もあるが・・・流石に、就寝するときくらいは鍵をかけているにもかかわらずこの現状になるのだから。そこは諦めるしかない。
 だから、問う言葉も何をしに来た、と簡潔になるのだが。
 そんな、ディックの不機嫌さを気にした風もなく。彼に声をかけた目元だけ覆っている赤いマスクをした男。ジェイソンは、
「あんね、こないだのお礼。してもらおうと思ってさ」
 と、子供のような無邪気な笑みを浮かべた。
「・・・こないだ・・・?」
 何かあったっけ?とベッドに座ったまま頭を掻いているディックにジェイソンはにじり寄り、唇が触れそうになるほど近くで。
「あんたがブルースとヨロシクやってる時。俺、オチビちゃん助けてたんだぜ?」
 一瞬何の事か分からなかったが、オチビちゃん=ティムだと気づくと。つい先日の、バレンタインの時の事だと思い当たる。
 実際は助けていたというよりも・・・互いに足を引っ張っていたようなものなのだが。
 現場を見ていないディックは、確かにあの夜はティムとジェイソンのお陰で久しぶりにゆっくりとブルースと一緒に過ごせたと言う事実から・・・
「お礼って・・・何したらいいんだ?」
 ティムやブルースがいたら、迂闊過ぎる!と叱られそうなほど素直に、そう尋ねていた。
 ジェイソンはニヤリと笑い。
「これ、ディッキーに似合うと思って買ってきたんだ。着てくれるよな?」
 と、持っていた箱を突き出した。
 ディックは勢いのまま箱を受け取ってしまったものの、なかなか箱を開ける気が起きずに箱とジェイソンの顔を交互に見つめ。
「・・・絶対に、着なきゃ・・・ダメ?」
 箱を開ける前から少々渋りぎみに尋ねた。
「何で中見る前からそんな嫌そうなんだよ・・・」
「だって、お前が持ってくる服が普通なわけないだろ?」
 そういいつつも、箱を開けたディックは・・・
「・・・・・・。お前、馬鹿だろ」
 再び静かに箱の蓋を閉め。とても良い笑顔で言い放った。
「ああ、分かってたけどやっぱその反応傷つくなぁ」
「分かってるならこんなの持ってくるなよ・・・」
 はぁ、と大きく溜息をつくディックの手から、ジェイソンは箱を受け取って中身を取り出す。
「だって、ぜってーディックに似合うと思ったんだもん」
 両手に持って広げられたそれは、黒をメインにブルーのレースで装飾されたベビードール。生地はシルクだろうか少し光沢のあるそれは、とても良い手触りだ。
「僕がそんなの着ても、気持ち悪いだけだろ?」
 ディックは、手に持ったそれを体に合わせるようにしてくるジェイソンの腕を押しのけ嫌そうな顔をしてそう言った。
「気持ち悪いと思ってたらわざわざ買ってこねぇって」
 だが、負けじと返された言葉に。それもそうかもしれないけど・・・と思いかけ、はたと。
「ちょと待て。お前、もしかしてこれ・・・ショップで買ってきたのか?」
 引きつった顔で尋ねれば、ジェイソンは、
「おう、ショーウィンドウに飾ってあるの見つけてさ」
 と、事も無げに答えた。
 ネット通販というものが普及しているこの世の中で。まさかジェイソンが自分で店に入ってこんなものを買っていただなどと思っていなかったディックは額を押さえる。
「お前、やっぱり馬鹿だ・・・」
 ディックは盛大な溜息と共にそういうが、ジェイソンは気にした風もなくディックの肩を抱きよせ。
「な〜。せっかく買ってきたんだからさ、ちょっとでいいし着て見せてよ」
 と、甘えるようにお願いをしてくる。
 元々、ジェイソンがこれを着ろといってきたのはあの日のお礼のためだ。
 ・・・お礼をしろと自ら言ってくるのもどうかと思うが。
 もっと、無茶苦茶な事を言われてもおかしくない状況でもあるのに、今回のこれは自分が少し恥ずかしいのを我慢すればいいだけで・・・。
 そう考えたディックは、軽くジェイソンを睨みつけてから。
「・・・ちょっと、だけ。だぞ?」
 別に、大観衆に見られるわけでもないし・・・と、溜息をついて渋々承諾した。



 半分自棄になりながら、ジェイソンが用意したそれを着てみれば。男として一番大事な部分を覆い隠すはずの布の面積の少なさに酷く心もとなさを感じ。さらに普通にシャツを着たときと違い、胸の部分だけ締め付けられているような感覚に酷い違和感を感じて、落ち着かない。
 それに、ひらひらふわふわとした布が肌に軽く触れる感覚が、なんだか妙な感覚を呼び起こす。
「ほら、着たぞ。もういいだろ?」
 こんなもの、早々に脱いでしまおうとそう言って、肩紐に手をかけるが。
「ディッキー。これ、ストッキングもセットなんだ」
 と、後ろから腰に腕を回して、抱きしめるようにして。ベッドに腰掛け目の前にペロンと出されたそれは、太股までの長さの、これまたメインは黒でレースがブルーのガーターストッキング。
「・・・これも?」
「もちろん」
 げんなりと尋ねれば、耳元に楽しそうに返事が返ってくる。
「なんなら、俺が履かせようか?」
 片手は腰に回したまま、ストッキングを膝の上に置き。その、空いた手で太股を撫でながら言われ。
「っ!・・・自分で履くよ」
 ディックはその手の感覚に一瞬ぞくりと身を震わせるが、それに気づかれないように肩に顔を埋めているジェイソンの額を軽く小突いて体を離した。

「ったく。何処でこんなの見つけてきたんだよ・・・」
 ストッキングを履いて、コスチュームとはまた違う生地の感覚に眉をひそめポツリと呟き。
「ほら、これで気が済んだだろ?」
 先ほど脱いだシャツを取ろうと立ち上がった。
「っ!?」
 その瞬間、手首を掴まれ強い力で引かれ。ディックはバランスを崩しベッドへ倒れこんだ。
「ジェイっ!?」
 何をするんだと睨みつけようとした瞬間。唇を塞がれて驚き、呼吸が止まる。
 そんな事はお構い無しにジェイソンの舌は無遠慮にディックの口内に入り込み、歯列をなぞる。
 驚いて動きを止めている間に、両手を押さえつけられ。しかも、倒れた瞬間に広がった足の間に体を滑り込まされ。一切抵抗が出来なくなっていた。
「んっ!んーーーっ!!!」 
「っ!?」
 しかし、せめてもの抵抗と口の中に入り込んでいる舌に噛み付いてやると。漸くジェイソンはディックから唇を離した。
 だが、両手の拘束はそのままで、なんら好転はしていない。
「あ〜、血が出てきた。ひでぇなぁ」
 その言葉の内容とは裏腹に、楽しそうに笑ているジェイソンを睨みつけ。
「酷いのはどっちだ!!ちょっと着て見せるだけって言っただろ?さっさとどけよ!!」
 ディックは噛み付く勢いで怒鳴りつけた。
「うん。イイもん見せてもらったから。俺、元気になっちゃってさぁ」
 ジェイソンはディックの怒気を含んだ睨み付けにもひるまず、ディックに自らの下半身を押し付けるようにして。さらに、耳元で。
「その"お礼"、しようと思ってさ」
 囁き、耳朶を甘く噛んだ。
「っ!?っ、いらなっ!そんなお礼、いっいらないっからっ!!」
 耳や首筋に舌を這わせられ。ディックはびくびくと体を震わせながら首を横に振る。
 先ほどから押し付けられている下半身は、ジーンズ越しにもわかるほど熱を帯びていて。ジェイソンがどれほど興奮しているのかをまざまざと思い知らされる。
「それに、アンタだって興奮してるだろ?」
 両腕を押さえつけたまま、顔が動く範囲にキスの雨を降らせながら言われたその言葉に、ディックは目を見開いた。
「あれ?自分の状況に気づいてねぇの?」
 ジェイソンはニヤリと笑いながら、驚きに抵抗する事を忘れてしまったディックの手を、そっとディック自身へと導く。
「っ!?」
 導かれた場所で指先に触れたのは、隠しようがないほど大きくなった自分自身。
「こういうかっこうして、興奮したんだろ?それとも、俺のキスに感じた?」
「ちッ・・・違っ・・・」
 くすくすと笑いながら耳元で囁かれ、ディックは恥ずかしさに顔を真っ赤にして、涙を浮かべて首を振る。
「まぁ、どっちでもいいや・・・なぁ、ディッキー」
 そんな、混乱して怯えた様子のディックに。ジェイソンは優しく微笑み。
「一緒に、キモチ良くなろうぜ・・・?」
 頭を優しく撫でながら、耳元でそっと囁いた。






「やだッ、やっ・・・」
 小さくなったとはいえ、いまだに往生際悪く抵抗を見せるディックに。ジェイソンはニヤリと笑みを浮かべ。
 耳朶、頬、唇と音を立てて口付け。再び口の中へ舌を侵入させ、思う様貪る。
 口の中に広がる鉄の味に、頭がくらくらする。
「俺さ、アンタとキスするの。結構好き」
 ディックの唇をぺろりと舐めて、ジェイソンは微笑み。顎、首筋へとキスの位置をずらしていき。肌を撫でるように手を滑らせて、するりと肩紐を腕の方へ落とす。
「ジェイソンッ!やめっ・・・っ!!」
 露になった胸元に舌を這わせ、すでに立ち上がっている突起にキスをすれば。ディックの体がびくりと跳ねる。
 胸の突起を弄りながら、眉間に皺が寄るほどキツク瞳を閉じているディックの表情を盗み見て。ジェイソンは気づかれないようにそっと手を動かし。
「あっ!?」
 大きくなってしまって小さなショーツから顔を出しているディック自身を握りこみ、軽く扱いて先端に爪を立てた。
「やっ!ああっ!!」
 その途端、ディックは胸元にあるジェイソンの頭をぎゅっと抱きしめ、体を丸め・・・。
「・・・。ディッキー、ちょー可愛い」
 ジェイソンは手に付いた白濁をべろりと舐めて、酷く興奮した顔で笑みを浮かべ。ベッドに体を預けて荒い呼吸を繰り返していたディックをうつ伏せにすると・・・尻を高く上げさせ足を少し開かせた。
「やっ・・・もっ。脱いで、いいだろっ・・・っ!?」
 腕に力が入らず、上体をベッドに預けたまま言う言葉を無視するかのように。ジェイソンは・・・。
「ひあっ!?」
 ディックの尻を包む小さな布を少しだけずらし、その場所へ舌を這わせ。次の瞬間には中へと差し込んでいた。
「やめっ!やっ!!っ!!」
 途端に上がる抵抗は、同じく布をずらして取り出した自身をやんわり握り、扱く事で押さえ込む。
「ん〜っ!んぅっ!!」
 止めろと声を上げたいのに、口を開けば意味を成さない喘ぎ声しか出せずに。ディックは嫌だと言うようにシーツに埋めた顔を左右に振った。
 そして、ジェイソンがその場所から漸く唇を離したと思ったら。
「ディッキー。もう、良いよな?」
 何を?と聞く間もなくあてがわれた熱い塊に息を呑む。
「待てっ!まだむっりっ・・・ぃっ!!!」
 その場所はジェイソンの舌と唾液で幾分か解されていたとはいえ、ジェイソン自身を受け入れるにはまだキツク、狭かった。
「うっ、く・・・すっげキツイ。もっと、力抜けよ」
 そう言って、ジェイソンはぐいぐいと腰を進めてくるばかりか、ぺちんと尻を叩いてくる。
 無理だって言ってるだろう!!と叫びたかったが、口をあければ悲鳴をあげそうで、キツク歯を食いしばる。
 最初は衝撃の大きさから、ディック自身の意思とは関係無しに全身の筋肉が強張りジェイソンを拒んでいたが。ずっと拒み続けていても、辛いのは自分だけ・・・まぁ、ジェイソン自身も・・・キモチイイ、よりむしろ。イタイ、はずなのだが。
 それでも、進入を止めようとしないジェイソンの動きに・・・ディックは少しずつ、息を吐いて力を抜いていった。
「ふっ、うっ・・・んっ・・・はっ・・・」
 小さく体を震わせているディックの背中に覆いかぶさり、ジェイソンはその項に軽く歯を立てた。
「あっ」
 今までと違う刺激を与えられ。その瞬間、ディックの体から微かに力が抜ける。それを見計らって。
「くあっ!ひぃっ!!」
 少しだけ、腰を引いたかと思ったら。すぐさま強く突き上げて、自身を完全にディックの胎内へと埋め込んだ。
「ほら・・・無理じゃねぇじゃん」
 耳元で小さく笑いながら囁かれるが、無理矢理胎内の奥まで発かれたディックはそれどころではなく。
 まるで酸素を求める魚のように口をパクパクとさせ、ジェイソンの体が笑う事で揺れるたび、その場所をきゅっと締め付けていた。
「動くぜ・・・」
 暫くの間、その収縮を楽しんでいたジェイソンが、更なる刺激を求めてゆっくりと腰を引く。
 漸く胎内の大きなモノの圧迫に慣れてきたのに、今度はそれが抜け出る動きで、内臓が引きずり出されるような感覚に、ディックはとうとう悲鳴を上げた。
「やべぇ・・・ディッキーマジ可愛いって」
 まるで獣のように後ろから突き上げるたび、ディックが涙を流して声を上げる姿にぞくぞくするものを感じ、ジェイソンはさらに突き上げを強くした。
 そして、そろそろ自身の限界が近づいてきた頃。
「うぁあっ!?」
 後ろから体を支え、胡坐を掻くように座ってディックをそのまま自身の膝の上に座らせる。もちろん、繋がったままなのでディックは自らの体重で、さらにジェイソンを深く胎内に咥え込む事になった。
 片方の腕はしっかりとディックを支え、もう片方の手はディック自身をひらひらとしたベビードールで包み込み、そのまま扱きあげる。
 手の感覚とはまた違うシルクの肌触りに。前にまわされているジェイソンのジャケットに包まれた腕に爪を立て、びくびくと体を痙攣させながら、与えられる衝撃に耐えていたディックは・・・
「いっ!?」
 不意に視界に入った、ジェイソンの手首。顔以外で唯一素肌が出ているその場所に、思い切り噛み付いた。
 その痛みが更なる快楽となり、ジェイソンを追い上げ。
「っ!!!?」
「くッ・・・おっ・・・」
 胎内に熱いモノが大量に流し込まれるのを感じ。ディックはそれに押し上げられるように黒いシルクとジェイソンの手を白に染めた。

「・・・ぅぁ・・・ぁ・・・・・・」
 糸が切れた人形のように、ガクリと崩れ落ちるディックの体を支えたジェイソンは。
「・・・なんだよ、今日は噛み癖が酷いんじゃねーの?」
 さも楽しそうに、噛み付かれた手首をぺろりと舐めた。
 そして噛み付いた方とは逆の手で、後ろからやんわりと顎を支え。放心したままで、少しだけ開いているディックの唇もべろりと舐め、キスを落とす。
「躾、し直してやろうか」
 いい事を思いついた。とでも言うかのように小さな声で呟かれた言葉は、ディックの耳には届いていなかったが。
 ジェイソンはディックを再びベッドに押し倒すと、着たままだったジャケットを脱ぎ捨てた。






 結局、流されるままにさまざまな事をされて、ぐったりとしているディックを腕に抱きながら。上機嫌のジェイソンはふと思い出したかのように。
「・・・そういや。もうすぐアイツの誕生日なんだよな・・・」
「・・・アイツ・・・?」
 いきなりそんな事を言われ、ぼんやりとした意識の中で尋ねると。
「・・・アイツの事だから、アンタには『誕生日プレゼントはお前がいい』とか言ってんだろうなぁ・・・」
 と、誰とは言わないまでも、誰か特定できる事を言ってきた。
「なぁ、やっぱりアンタ、自分をプレゼントにしてんのか?」
「お前には、関係ない」
 本当なら叫んで殴り飛ばしたいが、今はそれも出来ない状態で。ディックは掠れた声でそれだけ言うとそのまま眠りにつくために目を閉じた。
 だが。
「・・・なんなら、今日の服着て『僕がプレゼントだよv』って言ってみる?」



 街の誰もが寝静まった、静かな夜。
 とあるロフトのとある部屋から、カエルを潰したような悲鳴と共に酷く鈍い音がした事を知る者は誰もいない。



END

                                 2009/02/19














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