今日は、朝から様子が変だな・・・とは思ってたんだ。 「ロビン!後ろ!!」 僕がそれに気づいて叫んだときには、すでにロビンはヴィランが振り上げた棍棒に強かに叩き付けられ地に伏せていた。 いつも彼をフォローしているバットマンは、運が悪いことに今は別のヴィランと格闘していてずいぶん離れた場所にいて・・・ 「くそっ」 僕は瞬時に周りの状況路確認して、ロビンのすぐそばに飛んだ。 ヴィラン達を警察に引き渡して、ケイブに戻ってきた僕たちはまず傷の手当を始めた。 アルフレッドがブルースの、僕はティムの手当てをしていたんだけど。その時に、ティムが小さく呟いた。 「...Sorry...」 一瞬、何のことか考えた。けど、すぐに僕は笑顔を浮かべティムの頭を撫でる。 「気にしなくていいんだよ」 手当て。と言っても、ティムの怪我は少し大きいたんこぶが出来いてたくらいでたいした事はない。けど、こうやって謝るのは・・・やっぱり気がつくまで守られていたって言う気持ちがティムを沈ませているからだろうね。 その気持ちは、僕にも痛いほど良くわかる。僕がロビンだった頃もよく殴られて気絶したり捕まったりしていたし・・・そのたびに、バットマンが僕を守り、助けてくれた・・・ ちょっと過去の自分の情けなさに遠い目になりそうになっていると、何かを言いたげにティムがじっとこっちを見ていて。 「・・・ディック・・・」 「・・・ん?」 名前を呼ばれたから、にこりと笑って先を促した。けど、ティムの頬が赤く汚れていることに気が付いて。 「・・・あの・・・」 「Stop」 何かを言おうとしたティムを止めてその顎に指を添えて軽く横を向かせる。 「ディ、ディック!?」 驚いて声を上げるティムをよそに、僕はその赤い汚れをじっと見た。どうやら返り血の類じゃなくて、ティム自身の血のようだ。 消毒液はさっきアルフレッドが使ってたから・・・と顔を上げると、アルフレッドが使っていたメディカルキットはきれいさっぱり片付けられていて、ブルースもすでに巨大パソコンとにらめっこを始めていた。 流石にまたメディカルキットを引っ張り出して・・・って言うのは・・・少し面倒くさいなぁ・・・まぁ、このくらいの傷だったら・・・ 「ちょっと我慢して?」 「え?・・・ッ!!!??」 僕はティムの怪我をしている部分をぺろりと舐めた。 「ん、消毒完了」 ちょっとしたかすり傷みたいだし、よく言うよね?舐めておけば治るって。 「・・・ティム?」 顎から手を離してもティムは動こうとしない。あれ?と思って僕はその顔を覗きこ・・・ 「ちょ!ティムどうしたの!!??」 覗きこんだその顔は、まるでラディッシュみたいに真っ赤になって、鼻血まで出してる!! 「アルフレッド!!ティッシュ!!!ティッシュ頂戴!!」 僕はメディカルキットを片付け終わって戻ってきたアルフレッドに叫んで、ティムを支えて俯かせて、その眉間をつまんだ。 「ティム、大丈夫!?」 ティムの顔を覗き込んで尋ねてみたけど、ぼたぼたと垂れる血はなかなか止まりそうにない。 「ら・・・らいじょ・・・」 「ディック、アルフレッドが行くよりお前が取りに行った方が早いだろう」 どうしようとおろおろしている僕に、ティムは力なく言い。いつの間にかこちらに来たブルースがそう言った。 「あ、そ、そうか、そうだよね!すぐ取って来るから!!」 ティムには自分で眉間を押さえさせて、僕は立ち上がって駆け出した。 「ディック!アルフレッドには氷嚢を用意するようにいっておけ」 「わかった!!ティム!上向いちゃだめだよ!!」 僕はそれだけ言って、急いでウェイン邸に繋がる階段を駆け上がった。 ++++++++++++++++++++ バットケイブに残された二人の間に流れる、微妙な空気。 「ティム、何故そんな状況に?」 それを破るようにブルースはティムの様子を心配しつつも、少し呆れたように苦笑して声をかけた。 「・・・ら・・・らって・・・」 眉間を押さえたままのティムも情けないとは思いつつ声を出す。 原因は簡単だ。つい1週間ほど前に起きたあの刺激的な一夜。 ブルースは流石と言うべきか。意識の切り替えをしっかりしていて、昼間は普通にディックと接している。 だが、まだまだ少年のティムはそうもいかない。 ディックと普通に会話する場合はまだいい。子ども扱いされるのは気に入らないが、頭を撫でてもらうのも、まだ、大丈夫だ。普通の会話、普通の接触なら耐えられる。 だが先ほどの状態は、ティムには耐えられるはずもなかった。 顎に添えられたディックの指の感覚、すぐ傍で見つめられる視線、吐息。そして止めの舌の感触。 そのすべてがあの夜の行為に直結してしまい。結果、現状に至る。 ブルースも一部始終を見ていたわけではないが、突然ティムが鼻血を出した理由を何となく理解していて苦笑したのだ。 「ティム、ティッシュ取って来たよ!!」 そしてティムが鼻血を出した大本の原因は、そうとも知らず本気でヴィランに殴られた時に打ち所が悪かったのかと心配している。 「あ・・・ありあと・・・・」 とりあえずティッシュの箱を受け取って、鼻につめてから手を拭く。 流石にこのグローブ洗わないとな・・・などと思っていると、アルフレッドが氷嚢を持ってきてくれた。 「しばらくは安静になさってくださいね」 ティムは仮眠用に置かれたソファーに座らされ、氷嚢をうけとり首の付け根に当てた。 「ティム、本当に大丈夫?」 「う・・・うん・・・」 今だ心配そうに、ティムの隣に座って覗き込むディックに、ティムは嬉しいやら恥ずかしいやらドキドキするやら。複雑な気分になる。 「ディック、ちょっと来てくれ」 それ以上近づかれると、鼻血がさらに止まらなくなるのではないか?と焦り始めた頃、ブルースが助け舟を出すかのようにディックに声をかけた。 「ん?何?」 ディックはティムの頭をひと撫ですると、素直にブルースの呼びかけに応じその場を離れた。 「・・・・・・」 巨大コンピューターの前で話し合いを始める二人を、ティムはぼんやりと眺めている。 いつか自分もああいう風に全面的に信頼してもらえる日が来るのだろうか・・・ 自分の未熟さに泣きそうになる・・・が、ふと、あることに気が付いてしまった。 ブルースが腰掛ける椅子に体を預けるように手を付いているディックの形の良い臀部がティムの方に向けられ、足を動かす度にまるで誘うかのようにゆれて・・・ 「っ!!!!!」 ティムは慌てて視線をあさっての方向へ動かし、頭の中ではコンピューターのプログラムを高速で組み立て始めた。プログラムの内容はなんでも良かった。とにかく、意識を違う方向へ持っていかなければ・・・ 漸く落ち着いたところで、まずはディックに慣れないといけないと。ティムは大きくため息を付いた。 END 2008/09/26 |