「Oh,oh...」 バットケイブに入ったバットマンが、思わず声を漏らした。 彼の視線の先には、いつもなら、彼が羽織っているはずのマントに包まり。気持ち良さそうに寝息を立てているナイトウィングの姿があった。 〜数十分前〜 薄暗い洞窟の中に響くコンピューターの電子音。 そこへ、遠くからバイクのエンジン音が近づいてきた。 「・・・なんだ、誰もいないのか・・・」 そう呟いたのは、バイクでこの場所、バットケイブへやってきた長い黒髪の青年。ナイトウィングだ。 ナイトウィングはバイクを降り、奥へと歩みを向ける。 巨大コンピュータの前まで来ると、ふと、椅子に黒い物がかかっているのを見つけた。 ナイトウィングはそれを手に取り、広げ、首をかしげる。 「バットマンの、マント?」 何故これがここにあるのか、何故これをつけているはずの当人がいないのか。 わからない事だらけではあるが、とりあえず。 「・・・・・・」 見たところ、破けているわけでも何か危険な薬品がかかっているわけでもなさそうだったのでバサリ、とそれを羽織ってみた。 あの、体の大きなバットマンが羽織っていても、裾が地につくサイズのマントだ。 彼よりも体の小さなナイトウィングがそれを羽織れば、そのサイズはさらに大きく見える。 意味があって、マントを羽織ったわけではない。ただ、本当になんとなく羽織ってみただけなのだが・・・ ナイトウィングはそのまま、マントがかけてあった椅子にぼすりと座り込む。 「みんな、今日は来ないのかな?」 椅子の上で膝を抱え、まるで拗ねた子供のように呟いた。 しばらくの間そうやって丸まっていると、なんだか、懐かしい匂いに包まれているような気がして顔を上げる。 だが、周りに何かがあったり、人がいるわけではない。 そこでようやく、匂いの元が自分が包まっているマントだということに気がついた。 「・・・ブルースの、匂いだ・・・」 幼いころ、悪夢にうなされて眠れなくなったとき。 毎晩のようにブルースのベッドにもぐりこみ、その腕の中で眠った。 どんなに恐ろしい夢を見た後でも、この匂いに包まれていれば安心して朝まで眠ることができた。 そんなことを思い出していると、次第に瞼が重くなり・・・ そして、冒頭の状態に戻る。 だが、ナイトウィングが眠ってしまったのもある意味無理はないことなのだ。 昼は警察官として激務に追われ。夜は隣町から此処、ゴッサムシティまでバイクで現れ、街の平和のために戦う。 そんな生活を続けていれば、当然疲労はたまる一方で。 「参ったな・・・」 そう呟いたのは、マントを奪われてしまったバットマンだ。 このまま寝かせていてやりたいが、そういうわけにもいかない。 「・・・ディック。ディック、起きてくれ。」 極力優しく肩を揺らし、ナイトウィングを起こしにかかる。 「.uh...nn...」 すると、小さく声を上げ。ナイトウィングはゆっくりと首を動かしバットマンを見た。 「・・・ブルース」 バットマンと目が合ったナイトウィングはまだ少し寝ぼけた顔で、ふわりとほほえ・・・ 「っ!!?バットマン!!?今何時!?僕、どれくらい寝てた!!??」 急に意識がハッキリしたのか。ナイトウィングは慌てて体を起こしまくし立てた。 「・・・・・・」 あまりにも急激な変化を見せられ、バットマンは驚きに固まる。だが、すぐに口元に笑みを浮かべ。 「それほど寝てはいないだろう。私が此処へ来てまだ数分もたっていない・・・ところで、マントを返して貰ってもいいかな?」 そう言われ、ナイトウィングは自分がバットマンのマントに包まっていたことを思い出し、慌ててそれを返した。 気恥ずかしさのために頬が少し赤くなってしまったが、マスクで隠れてバットマンには見られていないだろう。 「みんなは?」 「ロビンもバットガールも、今日はいない」 「ふぅん・・・今からパトロール?」 「ああ、近頃はそれほど凶悪な事件も無いが・・・」 バットモービルへ向かうバットマンの隣を歩き、ナイトウィングが質問する。 と、ちょうどモービルの傍へきた時、通信機に信号が。アルフレッドだ。 「どうした?」 『ゴードン署長からシグナルです』 「わかった。すぐ向かう・・・」 通信を切って、モービルの扉を開ける。 「・・・ナイトウィング、私と・・・」 「僕も行くよ。いいでしょ?」 バットマンが言い終わる前に、ナイトウィングが笑顔で尋ねる。 それに、バットマンは一瞬驚いたような顔をしたが。すぐにその表情は笑みに変わり。 「・・・・・・ああ、ついてきなさい」 「Yes sir.」 ナイトウィングはおどけて返事をし、二人はバットモービルに乗り込んだ。 END 2008/08/20 |